12-夢の中で出会った人
『緑の風が吹く大地 我らの故郷に恵み満ちて
静かに流れるノース河は 未来へ続く希望の道♪』
何か…頭の中に歌のようなものが流れてくる…なんだろう⁈
ああ、たぶん夢だなこれ。
そんな事を考えていたら、目の前にカセーツさんが立っているのが見えた。
隣には…銀髪で長髪の背の高いイケオジがいる。
「カセーツさん!どこに行ってたのですか!みんな心配していたんですよ!早く戻りましょう!」
思わず声をかける。
だがカセーツさんはニッコリ笑い、何も言わない。
ただ、隣の銀髪のイケオジの方を見るように促している。
「カセーツさん!どうしたんですか!何か言ってくださいよ!…ん⁈それは⁈」
銀髪のイケオジが腰に差していた剣に見覚えがあった。
あれは…リコのお父さんの剣だ!
じゃあこの人…もしかして…⁈
銀髪のイケオジはその剣を鞘から抜くと、片手で横に薙いだ。
地面に対して平行に、美しく。
すると、剣先から緑色の光の軌跡が浮かび、7秒くらい消えずに残った。
「凄い…ですね…一体どう言う仕組みなんですか?」
銀髪のイケオジも、カセーツさんも、何も答えない。
ただ何度も、自分に『見せる』かのように、今の剣技を繰り返した。
『しろがねの城そびえ立つ 歴史を刻む誇りの証
優しき民の心は一つ 共に歩む明日の希望♪』
歌はずっと続いている。耳に心地良い優しい歌声だ。
でも自分はカセーツさんと話したいんだ、静かにしてくれ。
カセーツさんが何か喋った。
でも歌で聞こえない。
『萌ゆる大地、我らの誓い 手を取り合い、明日へと進む
平和と愛が響き渡る ――――を守り続けよう』
「すみません!歌で聞こえないんです!もう少し音を小さくお願いします!」
「きゃっ!ごめんなさい!」
「えっ?リコ⁈」
そこで目が覚めた。
思い出した。そう言えば仮眠を取ってたんだっけ。
枕元でリコが心配そうにこちらを覗き込んでる。
「ごめんなさい、あまりに疲れていたみたいですから…ちょっと回復魔法をかけていました」
言われて気付く、なるほど、だいぶ疲れが取れている。
そうだ…ほんの先ほどまでずっと、近隣の村人たちにも協力して貰いながら、行方不明になったカセーツさんを探していたんだっけ。
眠い目をこすりながらリコと話をする。
「いや…ありがとう、だいぶ疲れが取れたみたいだ。ちなみに…あれからカセーツさんは見つかった⁈」
リコは無言で首を横に振った。
「エルマさんたちも必死で探してくれたんですけど…みんなヘトヘトになって横になっています。」
「本当にどうしたんだろう?カセーツさんは急にフラッといなくなるような人じゃないはずなんだけど…」
「そうですよね…。あとで、山も捜索するみたいです。森の民にも協力をお願いしました。」
「森の民?」
聞きなれない名前が出て来た。ワーミ領の人なのかな?
「いえ、ワーミ領ではなくて…お隣の…今は放棄された土地であるガヤナ領の方たちです。その領の北に深い森があって、そこに住んでいる民です。ウチの領のお隣なので昔から親交があり、私も良く遊びに行きました。山野や森の捜索なら、お姉さまたちなら…いえ、森の民にはお手の物ですから、もしかしたら…」
何かに縋るような顔をするリコ。
お姉さま?リコは一人っ子のはずだから年上の友人とかかな?
そんな事を考えていたら、さっき夢の中でカセーツさんに会った事と、その夢の中で流れていた歌を思い出した。
「そう言えばさっき…夢を見ていたんだけど、その中でカセーツさんが出てきたんだ。何か言っていた気がしたんだけど聞こえなくて…その時、歌が聞こえたんだけど、あれはもしかして…⁈」
「あ、ごめんなさい、小さな声で歌ってたんですけど…」
あれはリコの歌だったのか。
「可愛くて心地よい歌だったよ、なんて歌なの?」
そう言うと、リコは周りを気にしながら、こっそりと打ち明けてくれた。
「私のお母さんが教えてくれた、一族に昔から伝わる歌です。歌の名前は…無いみたいで…母も人前では歌っちゃダメだって言ってました。…でも大事な人の前では歌って良いって言われていたので…つい…」
顔を赤らめるリコ。
「名前のない歌か…でも本当に良い歌だったよ!また聞きたいな!」
「私もこの歌大好きなんです!イチ様の為でしたら、またこっそり歌いますね!」
「ははは、ありがとう!でも歌詞も良いよね!えーとたしか…「緑の風が吹く大地 我らの故郷に恵み満ちて 静かに流れる…」だっけ」
がたがた…ゴトリ
ふとそんな音がして、音がした方を見ると、剣が床に落ちてた。
「ありゃ、剣が倒れたか…やれやれ…」
そう言いながら剣を拾い、鞘から抜いてみる。
「そう言えば…夢の中で、謎のイケオジが剣を振ってたな…あれは一体何…」
そう言いながら剣を見てみた。うっすら発光してる気がする。
いや…
待て…
剣に人が映ってる…自分と…リコと…もう一人!
「誰だ!」
そう言いながら虚空に向かって剣を振る!
剣先がかすった手応えがあった!
ドアが勝手に開き、何かが逃げ出していく音がする!
「リコ!みんなを起こして!俺は追う!」
「は…はい!」
廊下を駆け抜ける音がして…玄関のドアが開く音がした!
外に逃げた!
「どこへ行きやがった!」
家の外に出て周りを見回す。視界は開けてる。
少し離れた所に林があるが、基本、家が数軒と畑だけだ。
なのに…いない…。
いや…不気味なほどに人の気配が全くない⁈
さっきは慌てて逃げ出す気配と殺気を感じたのに!
リコやエルマさん達が家の中から出てきた。
カセーツさん捜索をしていた村人たちも何事かと集まってくる。
「気のせい…だったのか?」
「でも…私も足音を聞きました…」
自分とリコの会話を聞いた社長は何か思う所があったみたいで
「ふむ…何があったか分からないが、こんな状況だ…寝る時に見張りを立てた方が良いかも知れないね」
そう言って、皆に指示を出し始めた。
その時、林の方から人が歩いてくるのが見えた。
こちらに向かって手を振っている…アイツは!
「よう!イチ!そんな間抜け面しながら何を慌ててるんだ⁈」
「エリト…!」
クソっ!よりによって、こんなタイミングで!一番会いたくない面倒臭い奴が現れた!
「悪いが今は取り込み中だ、少し待ってくれ」
「そうはいかない、シリウスさんから伝言だ。大事な知らせだとよ」
「大事な知らせ?なんだ⁈」
「47人いた勇者な…30人くらい行方不明になってるってさ」
激震が走った。