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11-嵐の前の静けさ

「じゃあ、新しい種を撒いてみるわ」


「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


次の日からは挨拶回りだった。

新しい豆や農法を導入してもらうために、各地の長老たちに挨拶するのだ。


「私の年齢だと、まだワーミ領の皆さんの中には、領主様と認めてくれない人もいると思うので…一軒ずつご挨拶をしないと…」


リコがいつもよりキチンとした格好をしながら「頑張るぞー!」とやる気になっている。

わかる。バイト先の先輩達にも、地域のお年寄りとはちゃんと話をしておいた方が良いと言われたっけ。


「道義的にも効率的にもこっちの方が正解と分かっていても、それはそれで通さなきゃいけない筋はあるからね、人間ってのは理屈だけじゃ動かないんだよ」


社長がそう言いながら、自分とリコとで行く予定だった各地の長老への挨拶回りについてきてくれた。

社長は、それなりの年齢で、組織の長をこなしていただけあって、こちらを疑いの目で見てくる人たち相手でも、落ち着いて説明をして話を上手くまとめてくれた。


何より、リコは本当に頑張っていた。誠実に、礼を失することなく、一軒一軒訪問して、新しい農法について理解と協力をお願いしていた。13歳で親父さんの後を継いだリコに、領の長老の方々も最後には優しく「頑張れよ」と言ってくれた。


リコと社長だけいれば良いんじゃないかなと思う事もあったけど、ワーミ領の勇者は自分だから行かなければならない。あと想定外だったけど、こちらにムスッとした態度を取っていた人が、自分が腰に差していたリコのお父さんの剣を見た瞬間に、態度を変えて、真剣にこちらの話を聞いてくれた事もあった。


「リコのお父さんは尊敬されていたんだね、正直助けられてばかりだ」


「私も…お父さんの仕事の凄さが分かりました。そのおかげで、私が皆さんに優しくして貰えているのがよく伝わってきます…もっと…お父さんと語り合いたかったです」


嬉しそうに語るリコとそんな話をしていたら、社長が声をかけてきた。


「最後は『人』だからね、リコさんのお父さんは民は減らしたし、お金も残せなかったけど『人』を残してくれたね。この遺産、大事にするんだよ。それとイチ君、あちらから指名が入ってるよ」


「え?」


言われた方を見てみると、体格の良い老農夫が立っていた。いや、ただの農夫じゃない。年齢の割に背筋がピンと伸びていて、目つきも鋭い。かなり強そうだ。


「あの人は…確かお父様の…」


「リコさんのお父様の剣術指南をしていた方らしい。イチ君を鍛えてくれると言ってるよ。こちらの世界では我々は強さの祝福を受けているが、剣を振ったことなどないだろう⁈剣術をはじめ戦い方を学ばせて貰うと良いと思う」


「助かります!実戦経験なんて無いので心配だったんです!」


大喜びで申し出を受けると、社長からも申し出を受けた。


「鍛錬を受けた後は、私の『成長促進』の祝福をかけてあげよう。筋力や技術の伸びがかなり良くなるはずだ。疲労も回復するだろうし」


「わ…私も、イチ様に回復魔法をかけさせていただきます!」


リコが、ぴょんぴょん跳ねながら手を挙げてアピールして来た。

リコのこういう一生懸命な所が可愛いなと思うし、この娘さんのために戦おうと思わせてくれる。領民もそんなリコだから協力してくれるんだろうなと思う。


「その誠実さがリコの強みなんだろうな…じゃあ、俺は、自分の強みを伸ばすか…」


こうして、農作業と挨拶回りの後に、毎日みっちり剣術師範の爺さんに鍛えて貰い、社長に『成長促進』をかけて貰うルーチンを続けた。毎日へとへとになりながらも、2週間くらいで身体は一回り大きくなって、剣術のキレも段違いに鋭くなった。師範曰く「3年修行したくらいの強さにはなっている」そうだ。これで多少はマシになっただろう。


あと師範に、100秒間だけ最大255倍の身体能力が得られる、自分の祝福『アクセル255』の話をしたら、いざと言う時、ちゃんと使えるように鍛錬させられた。


ちゃんと調べたら、100秒強くなったら、500秒のクールダウンが必要で、その間『アクセル255』は使えない事が分かった。師範には


「実戦で500秒のクールダウンは致命傷過ぎる!鍛えろ!」


と言われ鍛錬の結果、180秒のクールダウンで再利用できるようになった。

師範が言うには


「イチは体の使い方に無駄が多い、それじゃ消耗しっ放しだ、生活する上での動きや、関節の動かし方にまで強い意識を持て。そうすればもっとクールダウンの時間は縮められる」


らしい。精進しよう。


ふと、クールダウン中に回復魔法をかけたら、クールダウンの時間を無くせるか縮小出来るんじゃないか?と思い、『アクセル255』使用限度時間直後にリコに回復魔法をかけて貰って『アクセル255』を連続使用出来ないか試してみた。


「リコ!今だ!回復魔法を!」


「はい!えい!」


「『アクセル255』連続発動成功!…イケる!ってうわあああああああ!」


結果は…発動はしたけど、全身に凄まじい反動が来て、とても使い物にならない事が分かった。絶体絶命の時以外には使えないなと思った。


**********************************************************************************


ワーミ領に来て、一ヶ月が経った。

農作物は『成長促進』効果で豊作で、副産物の酒も必要以上に貯蓄できた。

こうなると、収穫を祝う祭事をやりたいねと言う話が出て来た。


「宴会をやろう!ミーの必殺技もお披露目したいからね!」


「え?カセーツさん戦えるんですか?」


得意げなカセーツさんに、皆で、ついツッコんでしまう。

するとカセーツさんは、とても硬そうな豆を見せてきた。


「これは…?」


「アイア豆だ。これは鋼鉄のように固い豆でね…これを…こうするのさ!」


そう言いながら、カセーツさんは掌を、大きな岩に向け、叫んだ。


「ブッパ!」


ズババババババン!と散弾銃のようにカセーツさんの掌から豆が飛び出し、岩がボロボロになった。


「どんなもんだ!ミーだってやるもんだろう?」


「カセーツさん!凄いですよ!これは!」


思わず絶賛する。どぶろくさんやエルマさんもこれを見て


「これは凄いさあ~」


「あら…やるじゃない?今の貴方ならデートくらいしてあげても良いわよ⁈」


口々に褒めたたえる。


「はっはっは!どうやら遂に結婚してくれるようだね!エルマさん!」


「調子に乗るなボケ!外で頭冷やしてこい!」


カセーツさんとエルマさんの漫才も絶好調だ!

皆で大笑いし、宴会を始める準備をする。


「はっはっは!なら頭を冷やすために走ってこよう!戻ってきたらプロポーズを受けてくれたまえ!」


「やかましい!早く行け!酒が不味くなるワ!」


「羨ましいさあ~」


そんなやりとりがあって、外へスキップで飛び出してゆくカセーツさん。

みんな笑ってる。正直楽しい。


そしてこの瞬間、自分は竜人達との戦いの事を忘れていた。


カセーツさんの出て行ったドアが半開きになっていて、空気がユラリと揺れたのに気付かなかった。


そして…




カセーツさんは二度と帰ってこなかった。

















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