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10-リコの願い

「実は、私…領主として一人で勇者様を迎えるの初めてなんです」


少し俯きながら、リコが語り始めた。


「私の父はこの小さなワーミ領をなんとか切り盛りしようとしていた優しい領主でした。私も前々回くらいから父に付いて、勇者様のドラフトに付き添ったのですが、我が領の貧しさに呆れて全部逃げられてしまいました。」


リコは続ける。


「新しい知識も得られませんし、おまけに凶作で税が払えなくなって、民が少しずつ連れて行かれて…さらに払えなくなって…父も心労で亡くなって、本当は去年で我が領はお取り潰しになる所だったんです。」


「そうなんでゲス、そこでリコ様が…」


「はい、私が領主として立ちますと言って…母が、中央王族の末席の出身でしたから、一度くらいお情けでやらせてやるかと言われて…今年、ドラフトで勇者様に逃げられて税金を納められなかったら、この領は終わりでした。本当にイチ様…そして手助けをして下さる勇者様には、感謝しかありません!ありがとうございます!」


泣きそうになりながらリコがお礼を言う。そうか…後が無くて一発逆転に賭けていたのは、リコも同じだったんだ。


「だから、イチ様が『リコの勇者になる』と言われた時は、本当に嬉しくて!もう!こんな私なんかの為に…良いんですか?ありがとうございます!って」


耳まで真っ赤になりながら、リコがお礼を言う。


ああ、良かった。心からそう思った。


ワーミ領に来た理由の半分は、エリトと関わりたくなかったからだけど、もう半分は健気なリコを助けてあげたいなと思ったからだ。そしてその直感は正しかった。どうせ命を懸けるならまともな上司の下が良いからね。

そして、知り合った勇者達が本当にクセは強いけど気持ちの良い人たちで、正直今はワーミ領以外に行きたいとは思えない。


「こちらこそありがとう、リコ。俺を君の勇者にしてくれて」


思わず優しい声が出た。それを聞いて本当に嬉しそうなリコ。

そうしたら、ゲス郎が割り込んできた。


「アッシも、イチ様が残ってくれなかったら、路頭に迷ってました!アッシも過去にやらかして、故郷には帰れないので!ここで甘い汁を吸えないと終わりなんゲスよ!」


いや…ゲス郎のせいで一度、ワーミ領から去ろうとしたくらいなんだが…


「ゲス郎、お前、故郷で何したんだ?」


「ちょっと…女を7股くらいして…金を貢がせて…そうしたら故郷にいられなくなって」


「クソオブクソじゃねえか!お前はリコから去れ!」


「後生でゲス!見捨てないでくださいでゲス!」


脚に縋りつくゲス郎、それを見てリコが


「あの…母が、ゲス郎はどうしようもない人だけど、必ず役に立つ日が来るから、お側においておきなさいと言っていて…事実ゲス郎以外の付き人はみんな去ってしまって…そんなに悪い人ではない…と思う事にしてます…」


最後、少し小声だったぞリコ…。

ジト目でゲス郎を見ていると、ゲス郎が慌てて、こう言って来た。


「そ…そんなイチ様に贈り物があるでゲス!受け取って欲しいでゲス!」


そう言ってゲス郎が出してきたのは…うっすら緑色に反射する一振りの剣と、丁寧な作りの皮の鎧だった。

剣は見た目の割に羽のように軽く、初心者にも扱いやすそうだった。

皮の鎧は内部に薄い鎖帷子みたいなものが入っていて、裏地に見た事のない文字が縫い込まれていて、こちらも防御力がありそうな割に軽く、一般的な服と同じように着回せる、良い物だった。


「武器や防具はありがたいな!しかも、これは…中々良い物なんじゃないか⁈」


装備してみると分かる。剣道を軽くかじったレベルの自分でも扱えそうだ。


「それ…お父様の剣!でも税金を滞納した時に差し押さえられて…竜人に持って行かれたと…」


リコが目を丸くして驚いている。

ゲス郎がニヤリと笑って


「竜人達が差し押さえで、金目の物と一緒に前領主様の武器防具とかも取り上げていった時に、奴らの後をつけて行って、あいつらが寝ている隙に盗み出したでゲス!差し押さえのチェックは受けた後なので、無くなってる事に気付いても、何かあったら処分されるのはあの竜人達でゲス!遠慮なく使ってくださいでゲス!」


おおおおおお!と歓声が上がる。

そして思わずゲス郎に賛辞を贈る。


「やるじゃないか!ゲス郎!初めて見直したぞ!」


「ゲス郎さん!ありがとうございます!お父様の剣を取り返してくれて!」


「やるじゃない!ゲス郎!7股してた話を聞いた時は後で湖に沈めてやろうかと思っていたけど、小悪党も役に立つ事があるのね!」


リコやエルマさんも、大絶賛だ。


「じゃあ、早速使わせて貰って…いや」


思い直して、リコに剣を渡す。


「これは君のお父様の剣だ、もし使わせて貰えるなら、この剣はリコの手から受け取りたい」


リコは大きく目を見開いた後、すぐに嬉しそうな顔をして


「はい!じゃあ!改めて!」


そう言い、簡易的な叙任式を行う事にした。

自分は跪き、リコは剣を抜き、刀身に祈りを捧げながら、こう言った。


「勇者、北田順一、ワーミ領と、この私のために貴方の忠誠、公正、勇気、武勇、寛容、礼節、慈愛を捧げる事を誓いますか⁈」


「はい、一命を持って」


「では、この剣を授けます。貴方を信じます」


リコは俺の頭の上で剣を軽く振り、鞘に納め、両手で剣を授けてくれた。

その剣をうやうやしく受け取る。

これでちゃんと受け取れたわけだ。


「大事に使うよ、リコ」


「はい!ありがとうございます!」


頬を赤らめてリコが微笑む。

それを見て、エルマさんが小声で言う。


「似たような叙任式を私たちもやったけど…「○○領と、この『世界』のために」だったわよねえ…リコちゃん「ワーミ領と、この『私』のために」って言わなかった?」


「そこは流してあげるべきさあ~」


どぶろくさんが優しい瞳でリコとイチを見ながら、小声で返す。

カセーツさんも社長も、優しく笑っていた。


これで正式に、ワーミ領の勇者になれた気がする…が一つ気になる事があった。

ゲス郎に確認する。


「ありがとうな、ゲス郎…でも一つ聞いてよいか?」


「へへへ、なんでゲスか⁈」


「もし俺が…リコの勇者にならずに、ワーミ領がお取り潰しになった場合…隠していたリコのお父様の剣はどうするつもりだったんだ?」


「へへへ、その場合はもう不要でゲスから、売って飲み代にでもしようかと…」


「ゲス郎おおおおおおおおお!」


やっぱりコイツはダメだー!と

皆でツッコミとデコピンをゲス郎にかます、そんな夕食会になった。



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