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暴徒の検挙では、死者三人、負傷者二六人を出したとの報告を受けて、後事を作戦幕僚に委ねると、翌朝一番でダイゴは総督官邸に向かった。一晩寝ていないが、眠気はまったく感じなかった。総督官邸は、投石で窓が破れ、昨日の危機の深刻さを物語っていた。
「総督! 総督閣下はいずこにおわしますか! ダイゴ・ノダが参りました」
玄関で声を張り上げると、秘書官の一人が現れて、応対した。
「総督は、執務室におられます」
「ご無事なのか?」
「はい、しかし昨日から部屋に閉じこもりきりで、私らも、お食事も差し上げられていない状況です」
それを聞いて、ダイゴは一人広い階段を上って、二階の総督執務室前に至った。ドアをノックする。
「ダイゴ・ノダでございます。総督閣下、いらっしゃいますか?」
◇◇
ノックされた側は、執務机に突っ伏してまどろんでいた。
薄い眠りのなかで、夢見がちに思い出していた。
四年前、デンヘイグ近郊の別邸での野遊び、そしてそのあとの午餐の時のことを。あの時出会った、やや額の広い、漆黒の髪の男……
「総督閣下! ダイゴ・ノダが参りました。入ってもよろしゅうございますか」
リーセロットは鈍い動作で立ち上がり、入り口に足を進めた。
自らドアを開け、部屋の外にいた男に、
「お入りになって」
と告げた。
手招きされて、彼女の代理はゆっくりと執務室のなかに足を進めた。
「総督閣下。暴徒は鎮圧いたしました。どうか、ご安心下さい」
報告を受けたリーセロットは、かすかに頷いた。
「総督閣下――」
ダイゴが言葉を続けようとした時、リーセロットはにわかにダイゴに駆け寄り、両腕で彼の上半身を抱きしめた。甲冑と甲冑が触れる金属音が響いた。
「おお、ダイゴ、ダイゴ……」
そして、相手の胸に顔を埋め、リーセロットは溢れるように涙を流した。涙は、どれだけ流しても尽きなかった。
緊張の糸が、完全に切れたのだった。そして、彼女は自分の心のなかの想いをはっきりと自覚した。
――わたくしは、この者を愛している。愛している!
両の瞳の潤んだ顔を上げて、リーセロットは自分より背の高いダイゴの顔を見つめた。彼女が何を望んでいるかは、相手にも伝わったはずである。だが、ダイゴはそれに応えてくれることをしなかった。




