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二日後。
朝からデンヘイグ市街地の野外劇場の一つでおこなわれていた条約反対派の集会は、従来にない盛り上がりを見せていた。条約反対派議員が次々登壇し、盛んに数千人の聴衆を扇動した。当初から高かった熱気は、さらに温度を上昇させ、遂に、
「政権退陣!」
「全国議会解散!」
「賛成派全議員解任!」
場外で監視に当たっていた夜警隊の密偵も、従来とは違う集会の盛り上がり方に危機感を覚え、報告を持たせた連絡員を総督官邸に走らせた。
総督官邸の会議室には、総督、各評議会議長、各書記局長官、軍事内局長官代理、夜警隊本部長らが集合して、事態を注視していた。
間もなく次の報告が入り、反対派議員の私兵集団が、集会に合流したことが明らかとなった。
「首都警備隊及び夜警隊は、全力で総督官邸と全国議会議事堂を守備せよ」
報告を受け取った総督の命令が飛ぶ。だが、その兵力は、反対派勢力に対してあまりに少なかった。この点で、首都の残留兵力を五〇〇としたダイゴの判断にも、責任はないではない。
「こうなったのも、総司令官代理が、首都の守りをあまりに軽視したからであって、もっと兵力を残しておけば……」
と、一堂の前で第二書記局長官ティーレ伯はためらいながら指摘したが、
「千里眼でもない限り、あるいは天上の神でもない限り、そのようなことを見通すのは不可能です。かような批判は、無益でしょう」
軍事内局長官代理のミューレンは、それを制した。かつてはダイゴに反発も感じた彼であるが、今は公人としてダイゴを弁護した。
「軍主力の到着が、最悪間に合わない場合、総督にはこの官邸を脱出されて、市外にお逃げあそばすよう、ご準備をなされた方がよろしいでしょう。首都警備隊には、軍事学校職員をもって増強するよう手配済みです。兵力が残っているうちに、どうか」
ミューレンの提案を、しかしリーセロットは拒絶した。
「わたくしが今逃げれば、共和国は瓦解の危機に瀕します。わたくしは逃げません。ここにいる方々で、身の安全を図りたい方を引き留めはいたしません。でも、わたくしはこの場を動かないでしょう」
リーセロットの言葉は、その場にいる政権幹部たちの心を粛然とさせるものだった。浮足立っていた者もいたが、彼らは己を恥じた。
「わたくしは、執務室に戻ります。何か動きがあったら、知らせて下さい」
そう言って、リーセロットは一人、会議室を出た。扉が閉まると、その場にしばしの間、しゃがみ込んだ。




