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 ダイゴの軍主力が、ブレダー城を出発したことは、先行する早馬で首都に報告された。

「二日後、二日後には軍が首都に到着します」

 疲労困憊の騎兵伝令は、たどり着いた軍事内局の庁舎でそう報告すると、床の上にへたり込んだ。ブレダー城から、途中で馬を替え、普通は二日かかる道のりを一日で到着したのである。

 報告を受け取った部長たちは、一様に驚いていた。

 騎兵伝令は、ダイゴの軍と同時にブレダー城を出発したと言った。とすれば、軍主力は、たったの三日で首都に帰還することになる。通常は強行軍で六日以上かかる距離を、約半分の時間で到着するというのである。驚異以外の何物でもなかった。

「信じられん。総司令官代理(あの男)は、魔法でも使うのか……」

 長官代理を兼ねているミューレン隊務部長は、半信半疑のまま呻くように言った。

 ◇◇

 情報は、軍事内局から速やかに総督官邸に報告された。

「それは本当ですか?」

 総督執務室でミューレンが告げた軍の到着予定は、リーセロットにとっても驚きであった。驚きのあまり椅子から立ち上がり、問い直した。彼女も、トゥルンハウト以来の甲冑を身に付け、剣を下げ、自ら戒厳を指揮していた。

「確かなのですね? でも、ブレダー城からここまでは、六日以上かかるはずではありませんか?」

「報告が正しければ、でございますが。とにかく、あと二日持てば軍が前線より到着し、首都の治安を回復させることができるとのことです。どうか、ご安心あられますように」

 瞬間的に、リーセロットの心に一点の希望が灯った。

 ——ダイゴなら、本当に来てくれるかも知れない。

 ミューレンが辞去すると、銀髪の総督は腰が落ち込むように、椅子に座った。

 気丈に振舞ってはいても、彼女がまだ成人して4年弱しか経っていない、うら若き女性であることに違いはない。心の中で、希望と不安が同居していた。

 ――神よ。そして父上、どうかこの国とわたくしをお守り下さい。

 執務室の壁に掲げられた父、オラニェ公ヴィレムの黒い甲冑姿の肖像画に祈った。生前の父の言葉が、この時思い出された。

「神は、自らを助くる者を助く」

 リーセロットは、今自らをもって、このネイザーラントを救わなければならない立場だった。

 だが、当面物理的に兵力が不足しているという現実は、どうにも動かしがたい。条約反対派が大きな動きを開始する前に、軍主力が到着して、首都の治安を回復することが、絶対に必要であった。

「ダイゴ、早く来て……」

 不安に押しつぶされそうな胸の内を、リーセロットは呟きに乗せた。

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