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昼食を終え、ダイゴが居室で釣り道具を手入れしていると、入り口のドアをノックする音が聞こえた。
「入れ」
と命ずると、アルテュールが入室してきた。副官は、
「軍事内局からの連絡書簡が届きました。至急便です」
と報告した。
ダイゴは、何事かと訝しんだ。外交交渉が難しいものとなっていることや首都で治安状況が悪化していることは承知している。それらに関したことではないかという予感がした。
「読め」
取り敢えず心を落ち着かせ、アルテュールに命じた。
ダイゴの前で封筒を開き、便箋を取り出した彼は、紙に目を走らせると直ぐに身を強ばらせた。
「そんな――」
体を震わせ始めたのが分かった。
「おい、どうした。何が書いてあるのだ?」
ダイゴの問いに、数瞬置いて、アルテュールは明らかに動揺した表を上げた。
「父が、いえ長官が……暗殺されました」
悲痛な声だった。
「なんだと!」
ダイゴも驚愕した。それはあまりにも急な、そして衝撃的なものであった。
アウグスト・フォン・ナッソー死す。
「父さん、父さん……」
声を絞り出しつつ、今にも倒れそうなアルテュールの姿を見て、ダイゴは相当なショックを受けていると思った。突然の、それも暗殺という形での父親の死では、動揺しない方がおかしいであろう。
「座れ。まずは落ち着け」
副官を室内にあった椅子に座らせ、書簡を受け取ったダイゴはその紙面に目を走らせた。
書簡のとおりであるならば、三日前、アウグストは第一書記局から軍事内局に馬車で向かう途中で暗殺された。遠距離からマスケットで馬を撃たれ、傷付いた馬が暴れて馬車が横転し、そのなかより何とか這い出たところを、至近距離から短銃で頭を射たれ、止めを刺されたとある。
奇しくも、彼は異母兄と同じ手段で生命を奪われたことになる。暗殺の実行者については、現在首都警備隊と夜警隊が捜索中とのことであった。
「――総司令官代理閣下、どうされるおつもりですか?」
第一撃から立ち直ると、アルテュールはダイゴの副官たる公人に戻って、伺いを立てた。
「幕僚全員を集合させてくれ。速やかにだ」
ダイゴも、動揺を抑えて簡潔に命じた。彼にとっても、アウグストは大恩人であり、後見役であり、その死は計り知れないショックである。長官代理となった隊務部長ミューレンによる書簡の続きでは、条約反対派が日に日に勢力を増し、首都の治安は悪化の一途を辿っているとあった。総督は首都に戒厳の施行を決定し、さらなる治安の悪化を防いでいる。ついては、軍は総司令官たる総督の命により、直ちにブレダー城を発って、首都に帰還せよとのことだった。
幕僚が集合を完了するまでには、半刻を要した。
それまでの間、ダイゴは考えていた。首都デンヘイグ市の治安力で最大のものは、首都警備隊五〇〇名である。その指揮系統の最上部にいた軍事内局長官が暗殺されたということは、単なる治安の悪化ではない。クーデターあるいは反乱ということが、首都で起きつつあるということではないか。とすれば、首都警備隊と夜警隊だけでは、到底事態に対処できないだろう。隊務部長が、早急なる首都への帰還を求めている理由も、そこにあるに違いない。
何より、
――リーセロットさま……
彼にとっての唯一の忠誠心の対象が安全か、それが心のなかに影を作った。
――今、採るべき策は何だ?
少しの間歴史を辿り、そして策を思いついた。




