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「アンベルス市は、伝統的にネイザーラントに属する都市である。その住民はネイザーラント語を話し、文化的にもネイザーラントの風習になじんでいる。返還を要求するものである」

 と、ネイザーラント主席代表は主張した。

 だが、イスハニア側は妥協する姿勢を見せなかった。首席代表以上に、強硬に返還を拒んだのは、副代表スピノラであった。

「古来より、休戦ラインをもって和平後の国境となすのが外交上の習わし。少なくとも、我が軍は実力によってアンベルス市を手に入れた。何の代償もなく、これを返還するいわれはござらぬ」

 彼にしてみれば、アンベルス市は自らの知略と部下の流血によって獲得された、正当な戦利品である。やすやすと渡すわけにはいかなかった。戦場での勇者は、外交交渉においても、ハードネゴシエイターであった。巧みな弁舌と、時に脅迫まがいの主張を駆使して、ネイザーラント側の主張を拒絶し続けた。その調子には、首席代表のオルネラス伯の存在がかすんでしまうほどだった。本当は、これ以上戦争を継続する体力が自国にはないことは承知していたが、スピノラは決してそのことゆえに、弱腰にはならなかった。

 ◇◇

「それではいかがでござろう」

 何日か、議論が平行線を辿った後、ロンズデール伯が仲裁案を提示した。

「イスハニア王国はアンベルス市を返還する代償として、アロワ侯爵によって持ち去られたネイザーラント人一万人分の資産を返却しないということでは」

 だが、これには両陣営が反対した。

 ネイザーラント側は、

「アンベルス市は低地の本来的領土である上に、アロワ候は不当にネイザーラント市民の財貨を略奪した。当然、両者は我が国に返還されるべきである」

 と主張した。

 イスハニア側も、

「一万人分の財貨は、正当な裁判の執行の結果である。加えて、その合計額では到底アンベルス市の価値とは引き合わない。承服いたしかねる」

 と反発した。

 ロンズデール伯は、

 ――埒が明かぬ。

 と途方に暮れていた。

 和平交渉は、開始から既に二ケ月が経過していた。

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