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夜明け頃から、南の方角で散発的な銃声が聞こえてきた。警戒に立ててあった騎兵部隊が、敵と接触した模様である。
やがて、騎兵部隊が敵を振り切って戻ってきた。馬防柵の隙間から、陣地のなかに逃げ込んだ。
「見えた!」
「見えたぞー!」
「イスハニア軍だー!」
城壁の上に立たせていた物見の兵の声が、城壁前の陣地に届いた。軍楽隊の奏でる戦場音楽が、ここまで風に乗って流れてきた。
塔の上で敵情を視察していた情報幕僚が下りてきて、ダイゴに報告した。走ってきたためか、息が切れている。
「敵約一万七〇〇〇、距離一〇〇〇メット。なおも接近中です!」
ダイゴは頷いて、次に命じた。
「射撃陣地に兵を入れよ。発砲準備して待機だ」
「ははっ」
作戦幕僚を通じて、各大隊に伝令が飛ぶ。各マスケット兵は、陣地のなかで火薬と弾丸を銃口から込め、火縄に着火した。
「総司令官代理閣下」
幕僚長が声をかけた。
「代理でいい。戦闘中はな」
「では代理閣下、そろそろ例の手を」
幕僚長は、時期を見ていたようだった。敵は、名にしおう名将スピノラである。馬鹿正直に正面から陣地に突っ込んでくるとは限らなかった。そのため、少しばかりからめ手を講じる必要があると、ダイゴは考え、その策を講じておいたのである。
「うむ、やってくれ」




