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ブレダー城の会議室に参集を命じられた幕僚たちは、一様に表情が明るくなかった。メレヘンの戦いで一敗地に塗れ、心理的に追い詰められた状況にあるかのようである。
ダイゴは、幕僚たちを見渡した後で、一声を放った。
「このブレダー城を、最終防衛拠点とする!」
続けて、
「もうこの先、要害となる地物はない。ここで何としても敵を防ぎ止める」
「とおっしゃいますが」
幕僚長が口を挟んだ。
「既に、敵の兵力は我が軍の二倍近く。この城で籠城しても、じり貧は目に見えておりましょう」
「もっともな心配だ」
ダイゴは答えた。
「だが、イスハニアにも、長くは戦えそうにない事情がある。私は、それに賭けることにする」
「その事情とは、いかなるものでございましょう?」
いぶかしげな色に包まれた幕僚たちを代表して、情報幕僚が尋ねた。
「それはだな……」
ダイゴは、リーセロットの書簡上にあった重要情報を、ここで明らかにした。
現在のイスハニア国王フェルペ二世が重篤な病に冒されており、余命幾許もないというものである。
この時代、君主の生命と決断は、国策に決定的な重みを持っている。後の立憲君主制の時代、即ち君主が「君臨すれども統治せず」という時代であれば、国王や皇帝が死んでも内閣が戦争を継続するが、今はそうではない。少なくとも次の国王が決まるまで、戦争は中断される。
加えて書かれていたのは、イスハニアの財政事情が極度に悪化しており、豪商や大貴族相手に売りつけていた国債の利払いが危ぶまれているということだった(一方で経済が堅調なネイザーラントには、まだ財政に余裕がある)。
大陸各国に支店網を構築している、ネイザーラントの大銀行が得た情報であった。第二書記局経由でもたらされたのである。ネイザーラント、フランクそしてオットマンの三ヶ国相手に、長い間戦争を続けていたからには、当然と言えば当然の結果である。
これらが確かならば、イスハニア国王の生死は現在のネイザーラントとの戦争の行方に決定的な影響を及ぼすであろう。まともな判断力のある後継者ならば、まず戦争の継続は断念するはずである。
幕僚たちは、ダイゴの口から出た情報を聞いてどよめいた。まさにそれが事実であれば、イスハニア軍の進退に、大きな影響を与えることとなるであろう。
「――では、作戦の検討に入ろう。意見はあるか?」
ダイゴの問いに、まず作戦幕僚が発言した。
「そのような事情があるのであれば、状況の特質を活かし、時間を稼ぐ意味で、籠城戦が最も相応しいと存じます。城の防御力を最大限に活かして、時間を稼ぐべきです」
「なるほど、一理ある考えだ。他には?」
兵站幕僚が異なる意見を述べた。
「敵は、メレヘン以来、補給を受けずに我が軍を追撃していると考えられます。一方、我が軍は補給物資に事欠きません。積極的に城外で決戦を挑んでも、勝てる見込みはあるものと考えます。消極的になっても、幕僚長の言われるじり貧に陥る危険があります。敵が戦えなくなるのが何時かは、今はまだわからない以上、積極的に戦うのも策としてはあり得るのではないかと」
ダイゴは、二つの策で部下から決断を迫られる形になったかのようであった。
「情報幕僚。敵軍がこの城に到達するのは、何時頃になる?」
問われた情報幕僚は、背後に控えていた部下と、何やら小声でやりとりをしたのち、
「短くて三日、長くて五日程度かと」
それを聞いたダイゴは、時間の余裕は少しだがあることを確認した。短い間、言葉を紡ぎ出すのに沈黙を保った。
「総司令官代理閣下。ご決断を」
幕僚長に促されて、ダイゴは立ち上がった。
「私の策を示す。籠城戦はしない。敵の主将スピノラ将軍は攻城戦の名手と聞く。籠城しても、敵にも砲兵がある以上、長く持ちこたえられるとは限らない」
続けて、
「城外での決戦もしない。イスハニア軍は、既に戦力を一新している。侮ることはできない。そこで、私は第三の策を採る」




