12
デンヘイグの同盟政府は、事態への対応に苦慮していた。
メレヘンでの敗北の報せが首都に伝わると、直ぐにでもイスハニア軍が首都に攻め込んでくるかのような雰囲気となり、目に見えて空気が殺気立つようになった。夜警隊と首都に残された警備兵力は、デンヘイグ市内の目立つところに立哨を配置し、治安を確保しなければならなくなった。デンヘイグより南方の地方からは、多くの住民が市内に避難してくるようになり、食料品など各種商品の値上がりが始まった。
◇◇
全国議会議事堂内では、軍と政府の責任を追及する声が高く響いていた。名門貴族出身の議員が、声を荒げて発言した。
「この度の敗北、政府は如何にお考えか、現状認識を伺いたい!」
「軍事内局長官」
議長が、アウグストを指名した。杖を突きながら登壇した彼は、
「メレヘンの会戦で、戦勢利にあらず、退却したのは事実であります。ですが軍は、目下ブレダー城で再建を進め、再度の決戦に臨まんとしておるところであります」
このアウグストの答弁に、盛んに野次が飛んだ。
「それで戦線は立て直せるのか?」
「軍部無能!」
「無能軍部首脳退陣!」
「総司令官代理の解任を要求する!」
総督席で、叔父が浴びせられる罵詈雑言を自分に対するそれのように感じながら、今さらながらにリーセロットは一国の指導者の辛さが身に染みていた。順風の時には持ち上げられながら、一度逆風が吹き始めると周囲のすべてが剣を向けてくるかのようである。
――自分たちでダイゴの任命を承認しておきながら……
ダイゴの総司令官代理就任の人事案が可決された時、その場にいた議員たちは拍手を送った。だが、たった一度、たった一度負けただけで掌を返し始めた。勝手と言えば、あまりに勝手ではないか。
動議されたダイゴの総司令官代理解任案は、数票の差で否決された。だが、リーセロットもアウグストも、政治的に苦しい立場に立たされていることに違いはなかった。
全国議会が、日和見主義者・機会主義者・利己主義者の巣窟であるという認識は、今回も額縁入りの事実となった。
◇◇
翌日開かれた評議会議長会議も、重苦しい雰囲気のなかで始まった。評議会議長たちは一様に狼狽し、あるいは色を失っていた。
枢密評議会議長レーウェンフック侯爵が、発言を求めた。
「最悪の場合も、考えておく必要もあるやに知れませぬ。ことによっては、総督ご一家も政府も、北部に避難することを考えてはいかがかと」
その発言を聞いたリーセロットは、エメラルドグリーンの両目を見開き、叱咤といってよい声を出した。
「前線では、軍が必死になって戦っているのです! 安全なところにいるわたくしたちが弱気になって、どうするのですか!」
首都を死守することを、リーセロットは宣言した。
その勢いに、その場の空気は急に張り詰めた。もはや彼女は、「銀髪の小娘」ではあり得なかった。
前線にあるダイゴに向けて、リーセロットが手紙を認めたのは、その日の午後だった。評議会議長会議のあとで、第二書記局と第三書記局から重要な報告を受けたからである。




