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戦火四たび。「イスハニア軍の逆上」から数えて、アンベルス市が戦争の舞台となるのは、これで四回目になる。
ブリタリア陸軍が敗れた時の悪夢を覚えている市民は、我先に抱えられるだけの財産を持って市を逃げ出したが、今回のイスハニア軍は、略奪しようと思えばやりたい放題にできる市街地も港湾の倉庫群にも手を出さなかった。これも、スピノラの改革の成果である。略奪が軍規を崩壊させ、敵と戦うことを二の次にさせるということを、スピノラは低地軍から学んでいた。
ブラッセ市出発の二日後、軍規を徹底されたイスハニア軍は、市街地と倉庫群周辺に警備兵を立てて、略奪をおこなおうとする不届き者を監視する一方、郊外の城砦に対して包囲網を形成した。先にダイゴが陥落させてからの間に城は修復されていたが、イスハニア軍は海路輸送した射石砲を位置に付け、射撃を開始した。
――餌は撒いた。さあ、喰いついてこい。
射石砲が轟音を立てて石球を放つ景況を見ながら、イスハニアの黒狼は不敵な笑みを漏らした。




