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25

 ブレダー城を奪取し、冬営の期間を経たのちの春。ノルトブラバンド州アンベルス市郊外。

「距離五〇〇!」

「距離五〇〇!」

「装薬四!」

「装薬四!」

「射角一五!」

「射角一五!」

 砲兵隊長の号令を、砲側の兵員が復唱する。

「試射始め!」

「撃て!」

 二個中隊、合計八門のキャノン砲のなかの、各中隊一番砲が轟音を立てて火を噴いた。輸送船からキャノン砲を卸し、工兵の築いた付城に配置するだけで、一〇日間を要した。

イスハニア軍に奪われたノルトブラバンド州アンベルス市に隣接する城塞に対して、ネイザーラント軍の奪回作戦が開始されたのである。

 城塞としては旧式に属する。防御力はさほど高くはなく、そのために先のアンベルス市を巡る戦いでも、ブリタリア軍はここに籠城する作戦を取らなかった。

 城に籠るイスハニア軍の兵力は、約三〇〇〇と見積もられた。一方、ネイザーラント軍は約九〇〇〇。無理に攻城戦をおこなって、陥落させられないことはないが、総司令官代理は大阪冬の陣(慶長一九年(一六一四年))に倣って、砲兵と工兵により、努めて味方の流血を回避する戦術で攻略することを決意していた。大阪の陣の時代では、戦闘の主役は、既に火力に移行していた。

 試射の結果、射角を上げる必要があることがわかった。

「射角五上げ」

 従来、ギルド的職人集団だった砲兵を正規軍に取り立て、さらに射撃技術に数学や物理学を導入することによって科学化した。風向き・風量と射角が、弾道にどのような影響を及ぼすか、事前の計算によって、かなり正確にわかるようになっていた。

「中隊毎、効力射。撃ち方始め!」

 八門のキャノン砲が、逐次に射撃を開始した。砲弾は七割程度の確率で城壁に命中し、石組みを崩し始めていた。イスハニア軍の火砲の砲弾は石だが、ネイザーラント軍の砲弾は金属製である。威力には、大きな違いがあった。城内の敵兵としては、大阪城にこもる淀君のような気分を味わっているのではないかと思うと、ダイゴは少しばかり愉快になった。

 ダイゴは、背後にいる工兵隊長を顧みた。

「坑道の掘削は、順調か?」

「はい」

 工兵隊長デ・レーケは、肯定的に応じた。これまで土方の集団であった工兵が正規軍化されたのも、軍改革の一環だった。数学や測量学が技術のなかに取り入れられ、従来の職人の勘に取って代わった。

「地下での計測通りなら、既に城壁の直下に到達しておるとのことです」

「よろしい。明日の朝一番で、イスハニア兵を叩き起こしてやるとするか」

 総司令官代理として戦場に出て、これが二回目の戦いになる。

 総督として本格的に政務に取り組むようになったリーセロットには、戦場に出るいとまがそうそうない。加えて彼女は、総督就任のための進講の一部として軍事学を学んだが、実戦で指揮した経験はなく、到底戦場で采配を振るうことはできない。ダイゴが、総司令官代理に任命された背景である。

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