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 南部二州の奪回作戦が開始された。緒戦のノルトブラバンド州ブレダー城攻略は、事実上無血で終わった。トゥルンハウトから南方に徒歩で二日の距離にあるブレダー城は、このノルトブラバンド州一帯を支配する根拠地で、街道と運河が集約されるブレダー市に隣接していた。トゥルンハウトの敗残兵を含めて、八〇〇〇名ほどのイスハニア軍がこの城を守備しているものと見積もられる、と情報幕僚は報告した。

 ――最初から無理ゲーはしない。

 ダイゴは、この方針でブレダー城攻略に臨んだ。

 全国議会の議決に基づき、総督がダイゴに課した任務は、独立を確固たるものにするための、同盟時代からの旧領の回復である。そのためには、イスハニア軍の守備する城を、四、五カ所は陥落させなければならない。一方、手元の兵力は、一万にも満たない。

 兵力の劣勢は、機略と火力によって補う。これしかダイゴに採る道はなかった。

 時期が幸いした。年末の生誕祭が、間近に迫っていた。ダイゴは一計を案じ、地元の商人を雇って、多数の酒樽を「イスハニア国王からの御下賜品」と偽り、城内に運び込ませた。城兵が大喜びしたのは、言うまでもない。

 そして、生誕祭当日の午後、イスハニア兵が生誕祭の準備で忙しい時を見計らって、兵力をブレダー城の北側を西に向けて通過させ、アンベルス市へとつながる道を行軍させた。配属の軍楽隊に盛大な演奏をさせながら。

 ◇◇

「低地軍だ!」

「この城を迂回しようとしている!」

「アンベルスに向かおうとしているぞ!」

 生誕祭を楽しみにしていたイスハニア兵は、俄然顔色を変えた。文句を言いながらも大慌てで出陣の支度をし、城を出てネイザーラント軍のあとを追い始めた。

 だが、これは兵力の過半数を用いた奇計であった。見え見えの陽動作戦で敵をおびき出すのは、羽柴秀吉と徳川家康・織田信雄連合が戦った、小牧・長久手の合戦(天正一二年(一五八四年))の応用である。

 あの時は、森長可(ながよし)・池田恒興(つねおき)率いる羽柴軍の別動隊約二〇〇〇〇が後方に迂回して、徳川方の本拠地である三河に侵攻しようとするのを看破した徳川家康が約一四〇〇〇の兵力で小牧山城を出撃して、長久手の隘路で地の利を活かしてこれを撃破した。銃弾を受けて戦死した長可も、乱戦の中で討ち死にした恒興も、「そんな馬鹿な!」という思いだったであろう。

 だが、今回の作戦では羽柴軍の轍を踏まぬよう、イスハニア軍の出撃を見たら、迅速に逃げるよう指示してある。

 夜、すっかり手薄になったブレダー城が眠りに落ちた頃、音を立てないようにネイザーラント軍が城に忍び寄った。大隊長ハンスを先頭に、城壁に梯子が掛けられ、パイク兵たちが素早く登っていった。

 城内の留守兵たちは、自分たちだけ先に生誕祭を楽しみ、酒に酔って眠りこけていた。彼らが朝になって目を覚ました時、既に城内はネイザーラント軍が制圧しており、捕虜になった自分たちの立場を知らされた。

 城外におびき出されたイスハニア兵は敵を見失い、朝になって戻ると、城にネイザーラント国旗が翻っているのを見て、唖然とさせられた。

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