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フランク王国と戦いを続けていたイスハニアは、フランク国内が国王を中心とする旧教派と、一部貴族の新教派に分裂したと知ると、国王とは急遽和睦し、新教派相手の戦いを始めた。これは、フランクの新教徒と低地が手を結んでいるのではないかとのフェルペ二世の猜疑心と、新教徒を応援するブリタリアへの当てつけの産物である。一方、いきなり敵を変更させられた現地のイスハニア・フランク派遣軍首脳陣は、主君への真の忠誠心より、自分たちの損害を軽減することと戦利品の獲得を、暗黙の裡に優先していた。
クルトワ城攻防戦では、フランク新教派軍の守将は、城壁が落とされた段階で、生存者の安全な退去を条件に降伏を申し出た。イスハニア軍は、そのような次第もあって、降伏を受け入れることとした。かくして、この戦闘はイスハニア軍の勝利に終わった。
城内に敵が残した武器弾薬糧秣などの整理には、三日ほど必要とした。その監督が一段落した後、長身で整った顎鬚を特徴とするフランク派遣軍副司令官ベニート・スピノラは、城内で自分用に割り当てられた部屋のなかで、溜まっている書類の整理に取りかかった。数十枚の書類に署名した後で、スピノラが手にしたのは、稟議待ち書類ではなく、報告書であった。
「……トゥルンハウト?」
聞きなれない地名であった。
読み進めていくにつれて、副司令官はそれが低地の平原の名であり、そこでおこなわれた会戦で、イスハニア低地派遣軍が、近来稀に見る大敗北を喫したことが記されていることを知った。そういう情報は、耳では聞いていたが、文書の形で目にするのは、スピノラにとって初めてだった。
「マスケット兵の火力に圧倒された……だと?」
報告書の内容が確かならば、これまでイスハニア軍の象徴で、無敗を誇ってきたテルシオ戦術が、火力の前に敗れ去ったことになる。
スピノラは、その内容に微量の危機感を含んだ興味を抱いた。彼は、さらに時間をかけて報告書を読み込むことにした。




