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13

 次に、主計官候補生の教場に案内された。教場内では、補給品とこれに関する輸送の講義がされている最中だった。

「……以上が前提である。三〇日間の部隊行動を取るとして、前線に届けるべき糧秣の数量、必要となる輸送船の隻数、馬匹の頭数を答えよ」

 教官の設問に対して、候補生たちが一斉に計算用紙にペンを走らせ始めた。

「主計官は、従軍商人を監督できなければなりません。従軍商人が持ち運ぶべき糧秣の量を計算する能力を得させるのも、そのためです」

 教場のうしろで、ここでもダイゴは説明を始めた。

「従来、兵の給料は傭兵隊長に渡され、そこから各兵に配分されておりました。しかし、この要領では中抜きの問題がありました。このため、今後は各部隊に主計官を置き、傭兵隊長の手を経ず、国庫から直接兵に給料を手渡します。主計官は、戦場における糧秣の管理も、その職務の一つとさせます」

 説明に、リーセロットは聞きながら頷いていた。

 ◇◇

 主計官課程の次は、本館舎前の練兵場での視察だった。

 既にマスケット兵とパイク兵から成る大隊三個が方陣テルシオを組んで待機していた。テルシオとは、四角く何段にも列を成した長鎗パイク兵と、各角を一塊の火縄銃マスケット兵で掩護する陣形である。

「テルシオ訓練の成果を、お目にかけます」

 ダイゴの一言に、リーセロットも緊張の色を表情に湛えた。本日の視察の佳境クライマックスである。

「状況開始!」

 ダイゴの指示が各大隊に飛んだ。

 軍楽隊が鼓笛を中心とする奏楽を開始すると、にわかにテルシオは生き物のように前進を始めた。唐突に前進を止めると、マスケット兵に挟まれたパイク兵が長槍を構えて敵の突撃を阻止する動作を取る一方で、マスケット兵の最前列が射撃の準備動作をおこなった。

「放て!」

 中央の大隊で、指揮官ハンス・ミューレンの号令により、最前列が射撃する。射撃が終わった列はテルシオの両脇から最後尾に下がる。時を置かずして第二列が射撃、これも最後尾に回り、続いて第三列が射撃する……この繰り返しで、射撃が一巡した後、軍楽隊の音楽に合わせて、再度テルシオは前進を開始した。

「状況終わり!」

 ダイゴの命が届くと、軍楽隊は停止の合図を演奏した。

「総督閣下、前の方にお出で下さい」

 リーセロットは、テルシオの前進方向のさらに先へと案内された。そこには、敵兵を模した等身大の的が、イスハニア軍のテルシオと同じ正面規模だけ並べられていた。近付いてみると、リーセロットは、思わず息を吞んだ。木製の的のどれもが、多数の銃弾を浴びて、穴だらけにされているのが、目に入ったからである。

 ダイゴから、さらに説明を受けた。

 限定された兵力で強大なイスハニア軍に対抗するには、火力を強化するしかない。そのため、陣形のなかで火縄銃を装備する銃兵の割合を高める。この時代における基本的戦法は、長槍を持つパイク兵と、火縄銃を装備したマスケット兵で編成されたテルシオ同士のぶつかり合いである。長距離からはマスケットで撃ち合い、距離が縮まると長槍同士の叩き合いになる。

 敵のマスケット兵の数は、一個テルシオで一二〇名程度である。単純計算では、パイク兵に対して一割くらいだった。イスハニア軍に対抗するためには、マスケット兵の比率を飛躍的に増加させる必要がある。どのくらいかというと、イスハニア軍が一割程度であるなら、こちらは五割程度、つまりパイク兵とマスケット兵をほぼ同数とするくらいでなければならない、と。

 ◇◇

「続いて、砲兵と、工兵の行動をお目にかけます」

 歩兵の行動した地帯と数千歩離れた場所まで導かれると、前方を指し示された。

「キャノン砲で、あの石組みを射撃します」

 数百メット先と思われる地点に、城壁を模したかなり大きな石組みが起立していた。

「射撃開始」

 攻城時に投入される四門のキャノン砲が横一線に並べられていて、それらが逐次に砲弾を放った。砲弾は垂直方向に弧を描き、いずれも吸い込まれるように石組みに命中して、上半分を瓦解させた。

「お次は工兵です。――爆破せよ」

 ダイゴの声から暫くして、残っていた石組みの下半分が、地面のなかから大音響とともに持ち上がった土煙に、乗せられるようにして上方へと吹き飛んだ。

 ダイゴは、あっけに取られているリーセロットに説明した。

「石組みの遥か手前から坑道を掘り進め、石組みの直下に火薬室を設けて、そこに火を放ったのです。この砲兵と工兵の組み合わせで、堅固なる城壁も、打ち崩すことができるものと存じます」

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