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銃火力を中心として軍の編制を見直す。そして、銃火力を戦法の中心に位置付ける。このために、ダイゴがまず着手したのは、軍事学校の創設であった。総費用の見積もりを提出しただけで、アウグストは頭をかきむしって、
「相手は全国議会だ。努力はするが……」
とだけ言い、黙ってしまった。年度の国家予算に計上するには、第二書記局と財政評議会を通した上で、全国議会で承認されなければならない。多くの議員への根回しには、多大な労苦を要する模様である。
マスケット兵は、一回の射撃に、長時間と数多くの手順を必要とする。それは、先に練兵場で見たとおりだった。敵前で射撃するということは、当然だが、敵の銃弾も飛んでくるし、パイクにも邪魔される。命の危険を感じながら射撃動作を繰り返すことによって、初めてマスケット兵は戦力を発揮できるだろう。それには兵を長期間訓練して、機械のように正確に動けるよう習慣化させる必要がある。
兵を精強にするには、将校からして精強でなければならない。戦闘の勝敗は、将校の能力と精神に大きく負っている。将校も兵も、専門教育を受けさせ一糸乱れぬ行動を取れるように訓練するべきである。これは、一朝一夕にできることではない。学校のような機関を作らなければならないだろう。イスハニア軍の、次の攻勢までに間に合えばよいのだが。
デンヘイグ市近郊の練兵場が場所として選ばれ、急造の校舎が建てられることとなった。まずは将校に新戦法を習得させ、その将校に軍の訓練を任せるという段取りだった。
学校建設で設計から施工まで、中心的役割を担ったのは、デ・レーケである。測量、設計、資材・人員調達と、デ・レーケは職員と人夫を差配し、自らも活発に動き回った。
当面、木造で教場、厩舎、倉庫、食堂、事務棟、寄宿舎などを建てて、時期を見て煉瓦造りの恒久的施設に移行する。ダイゴは建設現場と軍事内局を往復し、建設工事の確認と、学校の教育カリキュラム作りに忙殺された。
教育は、戦闘兵科(歩兵、騎兵)、工兵、砲兵、憲兵、そして主計官に分けられる。まずは、各兵科別に将校の教育をおこない、その後、全兵科の合同訓練に移行する。主計官には、金銭の管理・出納、現地でのパン焼き業者や飼葉販売業者との契約、輸送・補給の計画・管理等を教育する。
人集めもしなければならない。全権を委ねられたからといって、何もかも自分でできるわけではないからである。まず、教官となり得る人材を見出し、その者たちに自分の考えを徹底し、その後教育に当たらせなければならない。
忙しい日々を送るなか、任命式はやって来た。
ネイザーラント軍人としての正装(煩わしいことこの上ない服装であったが)をしたダイゴは、総督官邸に出頭し、控室に入った。書類に総督の決裁を受けなければならない書記官たちが、何人か番が回ってくるのを待っていた。秘書官が、ダイゴの順番を告げた。椅子から体を立ち上がらせて、ダイゴは緊張と興奮のなか、総督執務室へ足を向け、その入口を通った。
儀式そのものは、極めて簡素だった。
秘書官の捧げた盆に乗っている一枚の紙を、リーセロットが手に取り、それを坂之上寿美麗の声で読み上げた。
「ダイゴ・ノダ。上記の者に低地諸州同盟軍軍監を命ず。兼ねて軍事学校長を命ず」
辞令は、リーセロットの手から、厳かに直立不動のダイゴの手へと渡された。
「励みなさい。期待しております」
大きくない声を、リーセロットはダイゴにかけた。
「拝命いたします」
ダイゴは、事前に受けた予行の通りに返事した。
辞令を片手に退室したダイゴは、控室に戻ってから心のなかで喜びを爆発させた。これからは、リーセロットを軍事面で直接補佐するのだ。もはや、軍事内局のただの一官吏ではないのである。




