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 最初の難関がやって来た。軍事内局の部長会議である。

 ダイゴは、自分の作り上げた軍制改革プランをここで発表し、部長クラスの同意を取りつけなければならない。長官以下、総務、経理、資料、隊務、兵務の各部長が列席する中、ダイゴは自分のプランの骨子を説明していった。

「――以上の通り、軍の在り方を根底から見直し、イスハニア軍に対抗し得る軍隊とすることに、この計画の目的があります」

 ダイゴが説明を総括すると、長官であるアウグストは、各部長に意見を求めた。まず発言を求めたのは、作戦と教育を統括する隊務部長フレーデリック・エフベルト・ミューレンだった。

「パイク兵とマスケット兵の比率を五割ずつにするというが、これは冒険が過ぎるのではないか。敵がマスケット兵の射撃の間隙を突いて突撃してきたとき、パイク兵が少ないのでは、総崩れになる恐れがある」

 鼻の下の見事な生えぶりの髭を微妙に動かしながら、ミューレンは発言した。

 当然といえば、当然の疑問であった。マスケットの射撃準備には、一発当り約一分は必要である。最初の数発の犠牲を覚悟の上で敵が突撃してくれば、これに対抗するためのパイク兵が少ないのでは、我が方が壊乱する可能性があった。

 だが、ダイゴは予め回答を用意しておいた。

「そのために、マスケット兵に何重もの陣を組ませるのです。最初の列が射撃したら直ちに最後列に移り、第二列が続いて射撃する。第二列が射撃を終えたら、第三列と交代する――という要領で。これにより、敵に比べて遥かに多くの射撃を加えることが可能となります。突撃するまでの余裕は与えません」

「人間は、からくりではない」

 ミューレンは食い下がった。「混乱した前線で、そのように正確に動きを繰り返すことができようか」

「直ちにやらせるわけではございません」

 ダイゴは、これにも反論を準備していた。「まず指揮をする将校を育成し、その指揮の下で兵たちが正確に動けるよう、年単位で訓練を繰り返します。人間も習性で動きます。体に動きを叩きこめば、混乱のなかでも、自ずと教え込まれた動作を取るようになるでしょう」

 ミューレンが言い返す言葉を探そうとしていると、続いて経理部長シュテヴィンが発言を求めた。

「傭兵たちに対する給与の支払いとして、年間の額を為替にして、国庫から手渡すよう改めるそうだが、確かにこれならば隊長による中抜きの心配はなくなる。だが、役得を奪われた隊長たちは、不満を抱えるのではないか。傭兵を集めないようになったら、あるいは最悪イスハニア側に立つようになったら、どのようにいたす?」

 これも、ダイゴにとっては予期していた質問の一つだった。

「傭兵隊長たちには、役得を上回る手当を支給いたします。当面人件費は高くなりますが、給料遅配による兵の規律崩壊を招くよりは、まだ我慢できるのではないでしょうか」

 経理部長は、質問を続けた。

「傭兵たちのなかには、妻子を連れ歩いている者も多くいる。年度の給料を一括支給するのでは、それらの者は日々の生活費に事欠くのではないか」

 この時代の軍隊は傭兵主体で編成されており、傭兵のなかには戦場から戦場へ、家族を連れ歩く者も大勢いた。傭兵と、そうした随行者が日々必要とする食糧や日用品は、軍に随行する従軍商人によって供給される。傭兵たちにとって、出費は毎日のことであった。

「それにつきましては、傭兵の家族を住まわせる宿舎を首都デンヘイグに建設し、傭兵契約の期間は、そこでの生活を保障するものとします。家族の生活費については、傭兵の年間給与のなかから差し引いた額を、国庫から手渡します。これにより、軍の機動力が著しく向上することも期待できます」

 軍に随行する家族、従軍商人、そして娼婦たちの数は、馬鹿にならなかった。下手をすると、軍の人数よりもこちらの方が多いくらいだった。当然、軍と違って行軍規律というものも持ち合わせていない。行軍できるのは、一日せいぜい午前中だけである。この時代の軍の行軍速度が著しく制約されているのも、このためだった。

「軍の随行者を大きく減らし、また糧秣補給と重量物の輸送に河川・運河を利用することで、我が軍は大いに機動の自由を獲得することが期待できます。いかがでございましょう」

 その答えに、

「なるほど」

 と言って、シュテヴィンは質問を打ち切った。

 その後も、資料部長、兵務部長等が質問をおこなったが、いずれもダイゴの用意していた想定問答の範囲内だった。適当なところで、アウグストが採決を取ることを宣言した。先んじて、

「諸卿、まだ言いたいことはあるだろう。実際、私も最初は驚かされた提案である。だが、やがて始まるであろうイスハニア軍の攻勢に対して、従来の我が軍では勝つのは難しいのが現実だ。だとしたら、ノダ軍監の策に賭ける以外に、我々の進む道はないように思う。いかがだろう」

 と、アウグストは自分の考えを述べた。

 採決の場では、隊務部長ミューレンのみが最後まで賛成の挙手するのをためらったが、最終的には挙手した。

「ノダ軍監の策を、今後の国防の指針とする。諸卿、左様のごとく心得よ。本日はご苦労だった」

 アウグストは、散会を宣言した。予定の時間を、一刻超過するほどの長い会議となった。

 杖を突きながらアウグストが会議室を退室すると、各部長もそれに続いた。ダイゴだけが部屋に残った。

 ――一つ、山を越えた。

 勝利とも、満足とも取れる実感が湧き上がってきた。

 ――だが、まだこれはスタート地点だ。

 これは自己認識ではなく、現実だと思った。

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