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ダイゴは日を改めて、軍事内局の一部門である経理部に足を向けた。事前に時間を作って欲しいと申し入れておいたのである。経理部は、軍事内局における金銭の支出・管理及び兵站を統括している。
応対したのは経理部長・主計総監シモン・ファン・シュテヴィンであった。長官補佐官という肩書は、部長クラスにも粗略にさせない重みがあった。
給料遅配の原因を質問するダイゴに対して、シュテヴィンは、
「兵の給料は、各年単位で一括して傭兵隊長に支給することにしている。各兵は、隊長から給料を渡される仕組みになっているのだが……」
経理部長の口は、そこから滑らかでなくなった。彼も、苦にしている問題のようだった。
「傭兵隊長が、事前に軍事内局と約束したとおりの額を兵に渡していれば、給料の遅配など起こるわけがない。だが、傭兵隊長は支給を受けた資金を懐に入れて、約束したとおりの額を兵に渡さないことがある」
こうした役得の形を取った不正は、傭兵という制度上必要悪として、従来黙認されてきたという。軍事費も全国議会の決めた国家予算の一部であり、それが傭兵隊長に不正に私財化されているとすれば本来大問題であるはずだが、傭兵が集まらなければ元も子もないので見逃されてきた、とシュテヴィンは語った。
聞きながら、ダイゴは、この問題を上手く解決できれば、経理部長を味方に付けることができるのではないかと考えた。現状、いきなり軍事内局にやって来た自分は外様であり、軍事内局内には正体も定かではないダイゴに、「余所者が偉そうに」という視線を向ける者もいるからである。一方で、戦国大名が軍資金の調達を重視したことは、彼も知っていた。
いったん経理部を辞したダイゴは、執務室に戻ると、引き出しから事務用紙を取り出し、二枚目の頁に、
「2 報酬支払方法の改善」
と書き込んだ。
――さて、具体的にどうする?
傭兵隊長にピンハネを止めさせ、兵の手に確実に給料を渡す。考えるのは簡単だが、長年に渡り、それは傭兵隊長の役得として既得権化されてきたのである。急に改めさせるのは、容易ではないだろう。
◇◇
課題を引き出しの奥に入れたまま、日を置いて、ダイゴは首都郊外にある練兵場に向かった。この時代の兵の動作を知るためである。特に、火縄銃の射撃要領は、知っておくべき必要性が大きいと思っていた。
火縄銃を射撃するには、非常に多くの手順が必要だった。
① 銃尾を地に着け、銃口を上に向ける。
② 発射薬を銃口から適量注ぎ込む。
③ 弾丸を挿入する。
④ 槊杖で、銃身奥まで突く。
⑤ 火蓋を開き、火皿に点火薬を盛りつける。
⑥ 点火薬がこぼれぬよう火蓋を閉じ、はみ出た薬を口で吹き払う。
⑦ 火縄を火挟みに挟む。
⑧ 火蓋を切り、火皿を露出させる。
⑨ 狙いを定め、引き金を引く。
このような手順を経て、火縄が火皿の点火薬に落ちて点火し、銃身内の発射薬に引火して弾丸が発射されるのである。
見学を終えて軍事内局に戻ったダイゴは、乗ってきた馬を厩舎につないでから、執務室に戻った。引き出しのなかから書きかけの事務用紙を取り出した彼は、
「3 火力・機動力の強化」
と書き込んだ。火力の強化は、数で勝るイスハニア軍を破る上で鍵を握ることは言うまでもない。その火力を活かすためには、機動力を高め、努めて迅速に敵に近づき、全部で九の手順を、敵前で正確に繰り返す射撃動作がおこなえなければならないと思われた。そのためには、マスケット兵を身軽にし、動作を速くしなければならない。ダイゴは、そう考えた。




