第1話 幼馴染と告白
向井凛久には同い年の幼馴染がいる。
その幼馴染の名前は『桜島真央』。名前から分かる通り女の子だ。
高校一年生。黒髪のポニーテールに黒縁眼鏡と、地味女子を体現したような存在。だが性格は朗らかで親しみやすいので男女問わず人気がある。
スタイルもいいほうだ。小柄ながら胸は大きく、脚もすらりと伸びて無駄な脂肪がない。お尻もきゅっと引き締まっていて、出ている所は出て引っ込んいる所は引っ込んでいる、女子としては理想の体型だろう。
そんな彼女と凛久は物心つく前からの付き合い。幼稚園、小学校、中学校、果ては高校まで一緒と脅威の付き合いの長さだ。我ながらにびっくり。
家も隣だから小学校の頃は毎日のように一緒にいた。小さい頃の真央は引っ込み思案だったから、上手く友達が作れなかった。そんな状況の中で幼馴染の凛久がいたのも原因の一つだろう。
それでも凛久は真央と遊べるのが嬉しかったから一緒にいたのだが、それを周囲は当然のように揶揄ってきて、『やーいませてやんのww』とか『お前ら付き合ってるんだろww』といった冷やかしを毎日のように受けた。しかし、お互いに『これだけ一緒にいるのだからそう思われるのは仕方ない』と反論することなく、むしろ堂々と開き直っていた。というか、凛久の方が「べつに構わん!」とより真央と遊ぶようになった。
だからそんな冷やかしも消火器が火を消すよりも早く鎮火してしまい、親も凛久と真央が『結婚《その気》』なんだと将来をニヤニヤしながら待っていた。
しかし、両親や周囲の期待とは裏腹に凛久と真央はいつまで経っても恋人になる気配なく、ただ仲がいい幼馴染という関係が十年近くも続いていた。小学校卒業をし、中学生に進級してからは、互いに部活の忙しさから帰宅時間が中々合わず、たまに遭遇すれば一緒に帰るくらいの仲までには距離が少し空いてしまった。夏休みに真央とあまり遊べなかったのは、凛久としてのわずかな後悔だ。
そして中学を卒業し、高校はお互いに『家から近いから』という動機で決めた同じ進学校へ。
クラスは一緒で、これで幼稚園を含めれば12回目となった。
本当にいつも一緒だな、と感動よりも呆れがきたのを、ボードに張られたクラスの振り分け表を見ながら真央と共に苦笑を交わし合った。
高校に進学してからはお互い帰宅部で、だからか登校と下校は自然と一緒に帰る流れになった。
真央と一緒にいるのは、やっぱり好きだ。
十年以上の付き合いを経て、改めてそう実感する。
きっとこの先も、それは変わらない気がする。
だから。
慣れ親しんだ住宅街の路地。桜がひらひらと舞って肩に落ちる。それを凛久は欠伸をしながら無視して、真央はため息をこぼしながら払ってくれる。
そんな、いつもと何一つ変わらない日常を繰り返しながら――
「なぁ、真央。俺たちそろそろ付き合わないか?」
「うん。いいよ」
四月。
凛久と真央は、桜が舞い散る通学路であっさりと〝恋人〟になった。
これは、向井凛久が幼馴染とただイチャイチャするだけの、途轍もなく平凡なお話だ。
ストック作らず新連載は地獄の幕開けなんだよなぁ。