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 思考加速したまま転移完了。


 状況確認。


 私は光る魔法陣の上で倒れている。魔法陣は半径8メートル程。辺りには私と同じく四人の男女が倒れている。部屋は薄暗く窓はない。明かりは壁かけのランプのみ。地下室か? 発光している魔法陣が良く目立つ。 魔法陣の外にはお姫様っぽい姿の娘。口が開いたままの状態。その隣にローブを着た魔法使いっぽいおじいさん。こちらは冷や汗と驚愕の顔。同じように驚いた顔の武装した兵士。数は23人。


 とりあえずの危機は無いと判断。

 自らの状態を確認。異常は……何か違和感がある?外部ではない。内部の……だめだわからん。サポートAIに補助を要求。解析申請。


 (解析完了。未知物質による影響あり。未知物質により付与された情報あり。この星の言語情報と判断。この未知物質により体内に影響あり。現在未知物質に対する対抗策を検討中。内部圧縮空間は次元炉エネルギーでの緊急防御に成功。内部圧縮空間に未知物質の影響は無し。次元炉や魂への影響は現時点で確認されず。提案。未知物質とこの星の情報収集のためのスパイ型ナノマシン散布)


 許可する。

 私が失った能力等は?


 (ありません)


 よし。部屋の隅に空間迷彩して裏空間作成。

 ちなみに空間迷彩はその字の如く空間に変化が現れないびっくり迷彩。

 裏空間は世界の裏側に当たる異空間。できることは移動と観測のみ。作成時に空間の歪みが発生。

 スパイ型ナノマシンを作成して裏空間に散布開始。裏空間のまま移動開始するナノマシン達。


 こんなものだろうか。


 現在予想される状況だが……ネット小説の異世界転移に近いかな? 私はそっち方面の知識も多少ある。が、どのパターンか予想できない。

 む、ってことはサポートAIが言っていた未知物質は魔力? あ、付与された言語情報から魔素でいいのか。


 他にも考える事ややるべき事があるような気がするが――私の頭ではこれが精いっぱいかな。

 念のためサポートAIに確認を……いや頼りすぎはよくない。

 サポートAIも私の頭と言えるが、サポートAIに頼りすぎると私の思考が機械的に寄ってしまう。合理的すぎる思考に人間離れした演算処理能力は私の魂に悪影響が出る。

 地球人類の山田新右衛門からあまりに逸脱する思考補助はNGだと私の魂が囁いている。


 とりあえずこれでOK。


 気絶したふりをしておき、思考加速を解除する。

 止まった時が動き出す。



 「やった! 成功よ! 早く異界人達に奴隷の首輪を……キャアアァァーー! 化け物!!」


 あ


 しまった。

 自分の体の事を忘れていた。

 今から起きて説明を……いや状況が余計ややこしくなるだけか。

 初めて聞く言語だが意味が理解できる。これが付与された情報か。理屈がわからないのにやるな魔素技術!

 そして奴隷の首輪……か。

 これはあまりいい状況ではない様だな。

 最悪力技で解決することを考える。


 「姫様! お下がりください!」

 「おお、本当に成功するとは……しかし魔族?ゴーレム?」

 「! 姫をお守りしろ! 四方を守れ! 異界人には二人。白い奴には六人で対処。残りは警戒。早くしろ!」 



 周囲がバタバタと動き出す。


 女は以前より少し離れた位置に移動。四人の兵士に守られている。

 その隣に同じく移動したローブのおじいさん。私を興味深そうに観察中。


 私や倒れている四人には兵士から剣や槍が突き付けられた。

 いや意識が無い相手にどうしろと? まぁ異界人が来ると思ったら人型の白い変なのが現れたら警戒レベルも上げるか。



 地面の魔法陣は役目を終えるかの如く発光が小さくなっていく。


 消えそうになる光を見ていい事を思いついた。

 私は体内の不思議エネルギーを使用。消えかかる魔法陣に添うように強烈発光を実行。


 「「?!」」


 目をくらます周囲を確認。安全を確保。

 短距離ワープにより部屋の隅に移動。自分の元居た位置に偽装体を作成。空間迷彩して裏空間を作成して逃げ込む。

 ミッションコンプリート。



 「慌てるな! どうやら儀式終了の合図だろう。全員異常がないか確認しろ」


 しったかぶりする騎士団長?みたいな人。

 私達の様子に変化は見られず、魔法陣の光は完全に消えている。

 部屋の中にほんの少し安堵の空気が流れた。


 「これで終わり……の様だな。ランシーヌ姫様。おめでとうございます!」

 「おめでとうございます姫。さぁ早く奴隷の首輪を」


 ほめる騎士団長風男に急かす爺。


 「そっ、そうね。アルフロア団長、異界人達に奴隷の首輪を。白い奴には特に注意して。いつでも殺せる様に」


 団長風から団長に確定した男が懐から黒い首輪を取り出した。

 私達に一人ひとり警戒しながら首輪を付けていく。

 あっ、私の義体に付ける時だけすごい顔してる。そんな怖がらなくても……。


 「終わりました」

 「良かった。これで我が国にも希望が……」


 感極まって涙を浮かべる姫。

 周囲も笑みを浮かべる人が多い。


 「異界人達をサノワ宮殿へ。最高級の対応で。白いヤツは地下の魔封じの牢獄へ連れて行って」

 「了解しました。全員行動開始! 慎重に運び出せ」


 晴れやかな団長男。

 やってることは誘拐に近いのに明るいなこいつら。


 「爺、改めて異界人への対応の確認と白いヤツの事で相談が……」

 「わかっておりますとも。わしも話したい事が……」


 しゃべりながら部屋を出ていく二人。

 残りの人たちも真剣な顔で動き始める。


 それを見つめる隠れている私。


 さてどうしよう?

 このまま連れ去られる義体に着いていきドキドキスニークミッションと行くか、それとも異界人組に着いていき更なる情報収集を――と考えていたが気付く。


 スパイ型ナノマシンで情報問題ほとんど解決するな。


 それにスニークミッションができる程私の精神は太くない。

 最高級の体と性能を持っていても心は私。魂を抜かれて改造されたこの身だが、多少の記憶喪失と少しの性格変化が起きただけで本質はほとんど変わっていないと思う。つまり普通より少し情けない一般人の思考回路だ。

 となると次の行動はどうすべきか。


 うーむ。


 現在私は異世界転移による興奮やこれからの事への不安で頭がいっぱいだ。

 そして疲れたので少し休みたい気分もある。

 考えないといけない事はまだまだ数多くある。

 でもややこしいし疲れたしとりあえず休みたい。

 

 いやこの状況でそうなるか? 思考が少しバカになってないか? 改造の影響か? いや元々こんな性格だったか。少し短絡的で図太くなっている気もするが……。


 どうする?

 がんばるか? 休むか?


 部屋はすでに無人で扉も閉められている。壁にかかったランプもどきがか悲しく明かりを照らしたままだ。


 思案しながら現在のワープ可能な場所を確認。スパイ型ナノマシンの情報によりこの建物(でかい城とか色々ある)周辺と城下町の少しまで可能とわかる。裏空間のままのワープは距離が制限されるが宇宙的スケールに比べれば無いに等しい。この惑星上なら問題ない。近場ならそのまま移動すればいい。裏空間に物理的接触は出来ない。壁も貫通し放題だし下にも潜れる。


 都合のいい場所を検索。城の離れに小さな花畑を確認。お、景色がきれい。

 花畑にワープ。

 裏空間のままの為もちろん花畑に変化はない。浮いたような状態で花畑に横たわる。空は晴れていていい天気だ。


 どうするか……?


 疑似的に目をつむり、考える。


 どう……?


 疑似睡眠に身を任せる。


 同じ裏空間にいるスパイ型ナノマシン達に笑われた気がした。 







 はっ?!


 目を覚ますと辺りは既に暗くなっていた。慌てて時間を確認すると体内時間で4時間12分程経過してる。


 すぐさまサポートAIから集まった情報の中から重要度の高い情報を要請。頭に入れる。


 色々あったようだが大きいのは二つ。異界人達の事と魔素を参考にした自己強化だ。


 まず異界人達だがあの後豪華な部屋に連れられて寝かされたがその後少しして起きた。混乱する4人にあの姫が説明。「死する運命のあなた達をこちらに呼び出す事で助けました。代わりにこちらの願いを聞いて欲しい」と。「ふざけるな。元の世界返してくれ」との返答には「返す事は可能ですがすぐ死にますよ。それはあなた達も理解しているはず」と回答。「何をさせる?」には「魔物と戦って強くなり、奪われたサンブローの都市を奪還して欲しい」と。「戦った事なんて無い」には「あの魔法は魔素適正が高い人を優先して召喚されます。魔物と戦えば戦う程魔素を吸収して強くなります。素質が英雄級なのは確定しています。心配はいりません」との事。「この首輪は?」には「奴隷の首輪です」と平然と発言。

 これには異界人達も大激怒。しかし姫は「安心してください。こちらの説明が終わった後に我々に敵意が無いか確認できれば奴隷の首輪は外します。今は国が魔物の被害で困窮していて危機的な状況です。そんな中多くの国家予算を使いあなた達の命を救い召喚しました。我が国の命運がかかっているのです。無理やり助けたとはいえこちらは命の恩人。その恩人の言葉を信用できず敵対するのであれば仕方ありません。強制的に元いた世界、時間に送還します。その為の措置です。あなた方が我々をすぐに信用出来ない様に、我々もあなた方をすぐに信用できません。むしろすべて正直に話し、そのまま首輪を外さない選択肢を取らない我々の行動の意味を考えてください。我々はあなた方をこの国の英雄として迎え入れたいのです」と説得。 ちなみにこの内容ウソではないが、真実ではない情報があったりする。他にも小さなことを色々と質問する異界人達に誠実に答える姫。

 異界人から「考える時間が欲しい」と提案があると姫は了承して配下の人達と部屋を出て行った。

 部屋に4人だけになり、さっそく相談やら自己紹介やら始まる。ちなみに4人の内訳は19歳のやさしいイケメン大学生、勇者っぽい男。25歳の目つきの鋭い剣術師範、居合いうまそうな男。23歳のぽやっとしたOLさん、聖女枠か。16歳の中二病高校生、魔法使いかな。名前は重要ではないし偽名っぽい人もいたから省略。

 話の上で皆異なる地球の微妙に違う日本から召喚された事が判明。時間のずれも多少あった様だ。まぁ私程の差ではないが。


 というかこの異界人召喚は本来成功するはずがなかった。

 この儀式は古代魔法文明が研究していたが成功することがなかった失敗作だ。それを古代魔法文明が滅んだ後の遺跡から情報をフレブール国がゲット。王宮で眠っていた古文書をランシーヌ姫が発見。国の緊急事態に思い出し、解析を行い一か八かで実行された博打の様な策だった。


 なんで成功したのかフシギダナー。

 

 ま、何であれ私の命も彼らの命も助かったのだからとりあえず良しとしよう。


 相談の結果彼らは姫の要求を呑んだ。死ぬよりはマシだろうし要求も人道的だ。戦う事への忌避感も少ない様だ(ぽやっとOLさんもけっこう好戦的だった。ストレス?)。奴隷の首輪は全員外された。誰も敵意は感じられなかったらしい。これには姫も大満足。

 現在彼らは歓迎の食事中。美男美女の給仕がそばに控えている。もちろんハニートラップ要員。


 そんな中私の義体は一応監視されながらだが、完全放置。地下の魔封じの牢獄で倒れたまま。


 どうするか迷う。

 この国がクズで救いようがなければ颯爽と現れ異界人達を助け出し、最悪この国を亡ぼしたりもできるのだが……どうやら違う様だ。姫は明確な悪人ではなくむしろ国の為に懸命に動いているまともな王族と判断できる。国王も清廉潔白などではないが、国の為に悪事を働く普通の国王だ。もちろん元日本人の倫理観では納得できない事もあるが、異世界まできてそれを言うのは違う気がする。かと言って全力でこのフレブール国に協力する気にもなれない。この国の貴族の情報を見るとわかっているだけでも嫌悪感が多くわく。まともな貴族もいるにはいるが……。


 そしてそんなことよりも重要な事がある。

 魔素を参考にした事による自己強化が可能になった事だ。


 より正確に言うと、内部圧縮空間内に次元炉エネルギー変換機能を追加することにより、次元炉エネルギーに万能粒子である魔素の特性を付与、新たな万能粒子を生み出す事が可能になった。すばらしい!

 これを不思議エネルギーを参考にしてMF(もっと不思議)魔素と名付けよう!


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