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プロローグ

 南国の楽園のような無人島。

 私は一人優雅に紅茶を味わう。

 夕暮れの空には二つの月がうっすらと。

 聞こえる音は海のさざ波のみ。

 私専用に作り出したイスが幸福感をさらに演出している。


 ああ、幸せだ。


 再度紅茶を口に――正確には口の辺りにカップを傾け、中身を消えるように少しずつ消滅させる。

 かむ事も飲み込む事もできない体だが、味はしっかり感じられる。


 おいしい


 ふと改めて自分の体を確認する。

 いつもと変わらず、白いボディスーツの姿がある。


 「やっぱり戦隊モノの悪役っぽい見た目だよな。武士道を重んじてる騎士タイプ。後半仲間になるけど最終的に主人公をかばってラスボスに粛清されそうな……」


 そんな勝手な妄想を口走りながら、私は改めてこうなった経緯を思い返した。



 


 事の起こりは2020年。当時の私は夜の公園で一人黄昏ていた。

 4月に両親の死亡、3か月後に仕事の喪失(友人に騙されて信用を失った)のダブルパンチで落ち込み、公園のベンチでうなだれる30歳のおっさんがそこにいた。


 これからどうするか、いっそ死んで……


 等と考えていた時


 いきなり上空から光に包まれ、私は意識を失った。

 



 後からわかった事だが、私は宇宙人にアブダクションされた。

 地球人は宇宙人にすでに調べ尽くされて調査価値はない。そんな私の誘拐目的は変態宇宙人への売買目的だった。

 私は空間凍結に近い技術で意識が無いまま売られた。

 変態宇宙人の家には様々な宇宙人が空間凍結したまま生きたオブジェとして飾られていて、私もその一員になった。もちろん意識は無いまま。

 

 そこで数年を過ごした後、今度は犯罪組織に売られた。目的は私の魂。


 宇宙人社会でも魂の実験は禁忌とされていたが、犯罪組織の優秀な科学者(イカ型)が有効な利用法を編み出した。それは宇宙最強生物、アルファ型宇宙怪獣の次元炉運用に使う事。


 アルファ型宇宙怪獣――大きさは幼少個体10キロ程度から成体になると小惑星並みまで。半機械的な白いクジラのような姿で生物的特徴と無生物的特徴を併せ持つ。一定の銀河を周回していて個体数はあまり増減しない。体内組織や内部液状金属組織を自在に変化させることができる。次元炉と呼ばれる再現・構築不能の心臓部を持ち、そこから無尽蔵の不思議エネルギーを生むことができる。このエネルギーによりアルファ型宇宙怪獣の生命維持、再生、移動、ワープ、バリア、攻撃等すべての行動を行っていると推測される。撃破記録は全幅20キロ以下の幼少個体108数のみ。それ以上の大きさの個体はいかなる兵装でもバリアを突破できていない。キルレシオは幼少個体1に対し同じ大きさの戦艦1000。極めて危険な存在の為、宇宙規定に基づき第一種接触禁止対象。撃破された個体を解析、分析したが活動中と撃破後では組織、成分の違いがある。活動中はあきらかに宇宙法則に反する現象も確認されている。その他多くの謎が含まれている。アルファ型宇宙怪獣の疑似的シミュレートはエラーを発し不可能。人工的に作り出すことも不可能。現宇宙で最も恐れられる不思議存在。


 組織のイカ型科学者は魂の隷属実験中にアルファ型宇宙怪獣の次元炉運用の可能性を偶然発見。魂の適応による次元炉再活動の実験を試行。多くの犠牲の上に次元炉の再活動に成功。

 再活動を始めた次元炉はいびつながら再生を開始。魂の隷属と暴走制御の様々なAI機能追加、宇宙中の合法、非合法の様々な技術をかき集めなんとかアルファ型宇宙怪獣と宇宙戦艦の二つを併せ持つ存在を作り上げた。


 これが多機能型次元炉搭載宇宙戦艦オメガ。魂の隷属により次元炉と宇宙怪獣的特徴への命令が可能。現行ザイズキルレシオは1:100。多種族対応で艦内構造を変化可能。補助AIによる超能力艦内サポートも完備(超能力種族にも対応)。原子変換機を搭載(莫大なエネルギー消費も問題なし)。ナノマシンにも対応。


 犯罪組織の象徴にふさわしい凶悪な艦で、この存在により組織は急拡大する。

 これに味を占めた組織は過去不正規に撃破された個体の次元炉7個を入手。宇宙中から集めた100万を超す魂の犠牲の上、オメガ2からオメガ8までの戦艦を完成させた。その最後のオメガ8の適合成功例の魂が私だった。


 ちなみに私の意識は失ったままだ。


 犯罪組織の繁栄は数十年単位で続いた。

 一方この頃、組織で多大な影響力を持ったイカ型研究者に対抗心を燃やしたタコ型研究者がいた。彼は言った。「隷属の度合いを低め、魂により近い形に体を変化させる事で次元炉の魂適応効率を上昇。キルレシオ1:1000の出力に近づけます」イカ型は「隷属度合いの低下は制御不能の危険性がある」と主張したが、宇宙治安維持軍に目をつけられ始めた組織はこれを承認。

 未だ地方配備されていなかったオメガ8の隷属度合い低下と肉体・船体構造改変の実験となった。


 私はこの問時の記憶を夢として認識していた時がある。


 言われるがまま命令に従い宇宙を行き来する。変な場所でタコが怒っている。体内構造を変化させそれぞれの宇宙人に合った環境を体内に作る。原子変換器で食料や資源を作り出す。敵船を攻撃して物資を体内に詰め込む。変な場所で装置をいじくっているタコ。また変な場所でタコが怒っている。移動。攻撃。タコ……。戦闘、破壊。タコが……


 私の改造に少しずつ成果が表れて1年と少し、事態は急変する。

 魂の実験に気付いた宇宙治安維持軍が総力を挙げて組織を襲ってきた。情報戦で負けていたのが決定的だった。急拡大により足元がおろそかになっていた事が敗因だ。三千を超える戦艦による電撃戦にはいくらオメガ型とはいえ対処できない。連携が取れないまま組織とオメガ型は各個撃破されていった。

 タコ型が気付いた時には遅かった。

 すでに実験小惑星は包囲が完成されており、攻撃距離まで3時間もない。脱出しても結果は同じ。タコもオメガ8の命も風前の灯だった。タコは思った。どうせ死ぬなら最後にオメガ8の最高出力が見たい!

 タコはオメガ8のすべての魂の隷属、リミッターを解除し、時間の許す限り自分の考えうる最強の為の改造を施した。そして覚醒したオメガ8にテレパシーで過去と現在の状況を説明。タコは伝えた。さぁ! 最後にお前の真の実力を見せてやれ! 



 「するかボケェェーーーーッ!」



 私の魂のこもった不思議エネルギー光線はタコを消滅させ外壁を通り抜けて宇宙に消えていった。




 さてどうしよう?

 緊急シャッターが閉まり、警報が鳴り響く(私の攻撃ではなく艦隊接近の為)中、総攻撃まで10分もない。自分の体を見ると白いボディスーツ姿が三人称視点で確認できる。って視点も自由か。すごいなこの体。まぁ目も耳も鼻も口もないし、脳も内蔵もない。体内にあるのは装甲とよくわからない組織と疑似空間の中の次元炉と多機能戦艦セットのみ。魂保護の為、不思議エネルギーで疑似的に人間のような状態を再現しているだけだ。体内変化や外装変化は現状不可能。この形で決定されている。原子変換機能は外部で可能。

 夢で見たブラスター銃を手元に作り出す。しばし観賞。かっこいい。それを構えて――いや何をやっているんだ私は。慌ててブラスター銃を消滅させる。

 残り8分。死の恐怖は改造された為かあまり無い。この状況にも一応納得している。元々こちらが悪役だ。私も夢の中で多くの船を攻撃し、数多くの命を奪ってきた。たとえ強制された行動だとしても今更私から反撃する気は起きない。この結末に文句はない。

 色々考えたがすることは特に思いつかず、最後に今まで飲んだことのある中で一番おいしかった紅茶を飲んで人生を終わるとしよう。

 実家にあった誰かのお土産でもらった茶葉で作ったミルクティー。原子変換機能は私の記憶通りの物を出現させた。当時よく使っていたティーカップを口部分につける。口がなくても本能的にそれが可能とわかっていた。


 おいしい


 少しずつ消滅する中身を確認しながら思う。この人生に後悔はない。最後に色々ありすぎたが、自分にできるだけのことはしたと思う。胸を張って両親に会いに行こう。

 そう思い最後の一滴まで中身がなくなった時、攻撃が始まった。


 周囲が明るくなり閃光が飛び交う。

 手元にあったティーカップは蒸発し、私は光に包まれた。

 本体は自動的に不思議バリアーが防いでいるが、この照射量ではすぐに限界がくるだろう。

 自らバリアーを切ろうと思った時、突然緊急事態用の思考加速が発動した。自死の状況には納得しているのになぜ? と不思議に思うとサポートAIから伝達される。

 

 (外部より未知の干渉を検知。次元跳躍や空間転移の事象と予測。こちらからエネルギーを供給することにより実行されます。どうしますか?)

 

 え? 未知の干渉? つまり助かるって事か? せっかく死ぬ覚悟ができていたのに今更……それに逃げても追手が……待て。この体でもわからない次元跳躍や空間転移の技術なんてあるのか? そんな技術者集団の仕業なら何か救いの手も……あるのか? いやわからん。わからんが……まぁ……死ぬのはいつでもできるか。男は度胸。一か八か。


 サポートAIに不思議エネルギー供給を承認する。


 と、足元に()()()のようなものが現れた。


 ! サポートAi! この現象の観測と情報収集を――


 私は七色に光る不思議な光に包まれて転移した。







 「やった! 成功よ! 早く異界人達に奴隷の首輪を……キャアアァァーー! 化け物!!」















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