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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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切望

「護符は術者の力に比例します。私はまだ修行の身なので力がそこまで強くありません。よって護符の効力も長くは持ちません。そして破魔矢もここにはもうありません。なにより、本来私たちは天野さんのためにこの場を一刻も離れる必要があるのに、いまだここにとどまっています。本殿には通常強い結界がはられ、異常があれば私たち神職は感知することができます。でも今は悪条件が重なりました」


芽衣さんは一呼吸すると話を続けた。


「まず、神降ろしは秘儀。結界というセンサーで神降ろしの様子を感知するのはご法度。そしてこの結界は神降ろしの発動を感知すると自動的に解除されるようになっているのです。通常の神降ろしであれば、その場に最高位の陰陽師がいます。万が一を考えても、解除されても問題はなかったのです。でも今は大問題です。結界が作動していないので、今、私たちがここにいることは、誰かが伝えに行かないと伝わらないのです」


つまり、いつものように誰かが異変を察知して、助けに来てくれることはない……。


「次に、今は雨降ろしの最中。本来雨降ろしの最中に黒い影や影の血の襲来はあり得ないことです。でも例外がありました。ほんのわずかな影の血が、人間に浸食していた場合、それは影の血と認識されず、人間と認識されてしまうのです。それでも本殿に、影の血は入れません。黄泉の国の住人が、許しもなく神の元へ踏み込むことはできないからです。でも私は三人をそうとは知らず招き入れてしまいました。招き入れたものを追い出すには、招いたものが追い出すしかありません」


そこで芽衣さんは凛とした表情で俺の目をまっすぐに見た。


「最後に、もう時間がありません。神降ろしの最中の天野さんのそばに私たちが、ましてや影の血が存在することなど許されるものではありません。影の血が万が一にも天野さんを浸食するようなことがあったら、取り返しのつかないことになります。だから、黒雷さんはこの扉から今すぐ外へ出て、木ノ花先生にこの状況を知らせてください。あとはおじいちゃんがなんとかしてくれるはずです」


最後の言葉の後の笑顔が少女のように清らかで、でもそれが別れの挨拶であるとわかり、俺は茫然とした。


「ほかに、ほかに方法は」


「ありません」


「でも、芽衣さん、田畑さんと沢野さんをここから出すって……二人に近づくんですよね⁉ 影の血に浸食されてしまうかもしれないのに」


「私が招いた責任をとるまでです」


「そんな……」


「時間がありません。黒雷さん、あなたがここを去ろうが去るまいが、私は自分の成すべきことを成し遂げます」


芽衣さんそう言うと、田畑さんと沢野さんの方に向かって駆け出した。


その瞬間。


俺は今まで感じたことがない激しい怒りを自分自身に感じ、そして切望した。


俺に、俺に黒影の先輩たちのように武器があれば、神降ろしができていれば、俺がもっと強ければ、敵を倒せたのに!


魂が震えるぐらいの叫びを、俺は心の中でしていた。


全身の血が煮えたぎるぐらい強く、強く、切望した。


武器を、神の権能を、強さを、俺にください、と。


――おい、小僧。


俺が目を開けると、目の前にミストの粒が見えた。


「え?」


さらに目を動かすと、芽衣さんの動きが止まって見えた。


まるで時の流れが止まっているようだった。


何が、何が、起きているんだ?


――おい、小僧、お前、つくづく失礼な奴だな。俺はお前が正式な儀式をしていないにも関わらず、やってきてやった。しかも、ここは別の神が神事をしている最中。

おい、分かるか?

分かりやすく言うなら、人間の男女が秘め事をしている現場に踏み込んでいるようなもんなんだぞ。しかもドアを開けて、じゃなく、天井ぶち破って。


この声はなんだ?


――おい、お前、俺は忙しいんだ。真面目にやらないのなら帰るぞ。


「えっと、すみません。状況が呑み込めていません」


――はあ、お前は神を呼び出したんだ。俺の力が必要なんだろう? 貸してほしければこう言え。『どうか無力な俺に一時、あなた様の力をお貸しください』と。


「つまり、俺は今、神降ろしをしている最中⁇ そしてあなたが俺と縁がある神⁇」


――ああ、そうだ。


「! お願いします、今すぐ強力な武器を授けてください。あそこにいる二人の敵を倒さないと芽衣さんは、影の血に浸食されてしまいます」


最後は涙声になっていた。


――おい、お前、本当、大丈夫か? はぁ……。腐れ縁だから仕方ない。俺の権能、貸してやるよ。ただし一撃分のみだ。正式な手続きを一切無視して協力するには俺もこれが限界だ。神の世界もな、いろいろややこしいんだ。


「え、一撃? どういうことです? 武器は剣とか槍とかじゃないんですか? それとも弓矢一本⁉ 敵は二人いるのに、一本なんて無理だ」


――ごちゃごちゃうるさい奴だ。剣や槍じゃなくて悪かったですね。俺の権能でお前に渡せる武器はこれだ。


その瞬間、俺の体に激しい衝撃が走った。

全身がバラバラになりそうだった。

頭の中には膨大な知識の波が押し寄せてきた。

考えるより前に理解できた。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

この大ピンチを蓮はどう乗り切るのか⁉

引き続きお楽しみください。

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