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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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特別なお守り

授与所は拝殿と渡り廊下でつながっていたが、俺は行くのが初めてだった。


拝殿から社務所に行くぐらい離れているという。


「授与所は普段の私の職場です。お守りやお土産などを販売している場所です」


小笠原さんは授与所へ向かう道中でそう教えてくれた。


「……小笠原さんも将来的には陰陽師になるのですか?」


「私、ですか? 私はこの神社の宮司に将来的になる予定です。私は宮司になるより黒影になりたかったのですが、一人娘なのでこの神社を継ぐように説得されて……。祖父は陰陽師と兼任していますが、それは祖父が並外れた能力の持ち主だからであって、私にはとても無理ですね。結界をはったり、術式を行使したり、式神を使役したり、そういった暗記系は得意ではなくて」


小笠原さんが黒影になりたかったなんて意外だ。それに暗記が苦手なんて可愛らしい。


「あ、黒影になりたいなんて意外、と思っています?」


俺はぎくっとして言葉が出なかった。


「こう見えて、私、運動が得意なんですよ。子供の頃から体操と水泳、空手を習っていましたし」


「そ、そうなんですね。小笠原さんなら巫女の経験もあるし、運動もそれだけできるなら、黒影になれるのに、残念です」


「……、それ、本気で言っています?」


「もちろんですよ」


すると小笠原さんはニッコリと笑顔になった。


「そんな風に言ってくださる方、初めてです。長清神社は金山統括庁の諮問機関にもなっており、ここでは地位も名誉も保証されています。宮司を約束されているのに、黒影になりたいなんて恐れ多い、ってみんな言うんです。私、黒雷さんのこと大好きになりそうです」


社交辞令だし、本気の恋愛の好きとかではない。


そうだとわかっても、こんな美人から「大好きになりそう」なんて言われるのは嬉しかった。


嬉しすぎて、デヘヘヘとしか笑えない自分が我ながら情けなかった。

恋愛経験がないのだから仕方ない。


そうこうしているうちに授与所についた。


小笠原さんが鍵を開けてくれて中に入ったが、やはり、というか当然、狭霧の姿はなかった。


一体、狭霧はどこに行ったんだ……?


「……、あの、天野さんは端末をお持ちではないのですか?」


「……あ」


どうしてそんな大切なことを俺は忘れていたのだ。


俺は耳まで真っ赤になり「すみません、すみません、お騒がせしてしまい」と床に頭がつくぐらいの勢いで謝罪をした。


「黒雷さん、お、落ち着いてください。端末のことを口にしましたが、よく考えればまだみなさんがお休みになっている時間。しかも私たちと入れ替えで天野さんが部屋に戻っている可能性もあります。端末で呼び出しをしたら……呼び出し音が鳴ることも考えられます。もしそうなれば、周りの皆さんのご迷惑になりますよね。ですから、端末に連絡をいれるのは相応しい手段ではなかったのです」


お、小笠原さん、祖父の方と違って優しい……!


「お気遣い痛み入ります。あと入れ替えで戻っているかもしれない、というのは盲点でした」


「ではお部屋に戻られてみますか?」


「はい」


「あ、ちょっと待ってください」


そう言って小笠原さんはお守りなどの在庫が置かれた棚の方に行った。


「ありました。最後の一つですね」


小笠原さんは右手に何かを持って戻ってきた。


「手を出してください」


言われるままに俺が手を出すと、小笠原さんがお守りをのせた。


鶯色の生地に桜が刺繍された、とても美しいお守りだった。


「これは長清神社で毎年春にだけご用意している特別なお守りです。黒影の春秋佐保さん、ご存じですよね? 彼女が神降ろしをした時に、春の芽吹きの力を分けていただいたんです。これを肌身離さず持っていれば、春の女神が守ってくれますよ」


「小笠原さん、そんな貴重なものを……、いいんですか?」


「黒影に向いているって言ってくれた御礼です」


「……! ありがとうございます」


「どういたしまて。それと私と黒雷さん、年齢はそんなに変わりません。よかったら私のことは芽衣さん、と呼んでくださいね。それでは戻りましょう」


俺は「はい」と返事をし、受け取ったお守りを大切に胸にしまうと、行きと同じように渡り廊下を芽衣さんと歩いた。


俺と芽衣さんは今日初めて会ったばかりだったが、ここへ来るまでと帰るときでは打ち解け度合いが違っていた。


今は陰陽頭の意外なエピソード、本当は洋菓子が好きなのに、日本の伝統を背負う立場から和菓子好きを通しているとか、そんな話ができるまでになっていた。


「あ、そういえば本殿は確認していませんでしたね。念のため、確認されますか?」


拝殿まで戻ってきたところで、芽衣さんが立ち止まって俺に聞いた。


授与所から拝殿につながる渡り廊下とは別に、拝殿からは本殿へ続く渡り廊下が伸びていた。


そこまで遠い距離ではないし、まさか本殿にいることはないと思うが、念のために確認させてもらおうかな。


「お願いします。お手数おかけします」


「大丈夫ですよ。参りましょう」


こうして俺と芽衣さんは本殿へ向かった。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

次回更新は明日の朝7時に3話、夜21時に4話となります。

明日の更新タイトルは「本殿」です。

ぜひまた読みに来てください!

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