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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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社務所

廊下に出るとそのまま渡り廊下まで進み、社務所へ向かうことにした。


うわっ、外は思いのほか冷たいな。


一瞬冷っとしたが、ミストのおかげでそれも和らいだ。


渡り廊下はミストの濃度が濃いように感じた。


数メートルおきについている足元ランプはミストのおかげで幻想的に光り、夜の闇はやや和らぎ、左右に見える竹林は水墨画の景色のようだった。


遠くでカエルの鳴き声も聞こえる。


一瞬自分がどこにいるのか分からなくなりそうだった。


神の力がしっかり発現していないから俺も酔ってきた⁉


そんなことを思いながら社務所に入ると、廊下が二手に分かれていた。


右につづく廊下と真っすぐの廊下だ。


あれ?


廊下は常夜灯がついていたが、真っすぐ続く廊下の真ん中の方は、常夜灯とは違う明かりが、右手の部屋から漏れていた。


俺はその部屋に近づきドアを見ると「社務所 受付」と書かれていた。


ノックしていいかな……? 中には誰がいるのだろう?


俺がドアをノックしようとした時


「どうかされましたか?」


女性の声がして「うわぁっ」と、思わず声が漏れてしまった。


「あ、驚かせてしまい、ごめんなさい」


その女性は拝殿で最初に俺に声をかけてくれた巫女さんだった。


はっきりとした目鼻立ちで、綺麗に切りそろえられた前髪、ポニーテールの黒髪と、清純派の美人だった。こんな時間なのにちゃんと巫女装束姿を着ていた。


「こんな時間にすみません。……あの、友人が布団を見たらいなくなっていて、その、こちらへ来てないかなーと」


「そうなんですね。ここではなんですから、中へどうぞ」


巫女さんがドアを開け、俺は後に続いた。


部屋の中は防衛本部の教務室に似ていた。


カウンター式の受付があり、奥は職員の席、そしてカウンターの前には待合室でよく見かける長椅子が置かれていた。


奥の職員の席にはもう一人、神職の男性がいて、何やら電話で話していた。


「こちらに」


再び声をかけられ、ドアの横にあった応接スペースに案内された。俺が腰を下ろすと巫女さんも対面のソファに腰を下ろした。


「申し遅れました、わたくし、小笠原芽衣と申します」


「あ、俺じゃない、僕は黒雷蓮です。第十三期黒影にこの春入隊しました」


「はい。存じ上げております。祖父から聞いております」


「はあ、祖父……」



この巫女さん、苗字が小笠原――ということは……。


俺の表情の変化に気が付いたのか、小笠原さんがニッコリ笑った。


「はい。祖父はここの宮司であり、陰陽師として金山統括庁に籍を置く、小笠原久光です」


うわーっ、じっちゃま、こんな綺麗な孫がいるとは!


「それで黒雷さん、姿が消えたというご友人は天野狭霧さんですか?」


「はい。トイレやお風呂場、一階の食堂にいないか確認したのですが、いませんでした……。もしかしたら何かあって社務所を訪ねたんじゃ……と思い、こちらへ来た次第です……」


「なるほど。私はちょっと席を外していた時間があるので、ずっとこちらにいた職員に聞いてみますね。お待ちください」


そう言うと小笠原さんは立ち上がり、カウンターの奥へ向かった。


奥にいた職員は丁度電話を終えたようで、そばに来た小笠原さんと話を始めた。


……それにしてもこんな時間でも社務所は開いているのだな。


「お待たせしました。今、確認しましたが、誰も来ていないそうです」


「そうですか……」


肩を落とす俺を見て、小笠原さんは心配そうな表情を浮かべて尋ねた。


「あの、授与所や拝殿の方は確認されましたか?」


「いえ。閉まっているので行かないだろうと思い、確認していません」


「そうでしたか。確かに鍵はかけてありますが……。今から念のため行ってみますか?」


「……! はい。ありがとうございます」


小笠原さんはニッコリ笑うと先ほどの職員の席に向かった。


「暗いですし、僕が同行しましょうか?」


「大丈夫ですよ。今日は雨降ろしで夜も静かですし。氷川さんは金山統括庁からの連絡対応に専念してください」


耳を澄ますと、二人の会話が聞こえた。それぐらい今日の夜は静かだった。


……そうか。今日は黒い影の襲来があったからその対応に追われ、こんな時間でも稼働しているのか。


そう考えると、今頃先輩の黒影たちも夜を徹して活動しているに違いなかった。


俺たちはただ食事をして寝ていただけ……。申し訳ないな……。


そんなことを思っていると、提灯を二つ手にした小笠原さんが戻ってきた。


「お待たせしました。参りましょう」


俺は立ち上がり、提灯を受け取った。


小笠原さんと提灯を片手に渡り廊下を歩いていると、平安絵巻の世界に迷い込んだような気持ちになった。小笠原さんは凛としていて、歩き方も綺麗だった。


そしてそれがとても絵になった。


「今、拝殿の扉を開けますね」


拝殿につくと、小笠原さんは鍵を開錠し、木の分厚い扉を開けた。


明かりをつけると、数時間前まで沢山の人がここにいたとは思えないぐらい静まり返り、そして狭霧の姿はなかった。


「こちらにはいないようですね……。授与所に参りましょう」


小笠原さんは励ますように俺に声をかけ、拝殿を後にした。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

狭霧の捜索は続きます。

引き続きお楽しみください。

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