消灯
夕食後、巫女さんから拝殿は夜間は締め切ると案内があり、大部屋への移動を促された。
二階が男性、三階は女性。それぞれのフロアにお風呂があるが、洗い場が四つしかないため、大変申し訳ないがあいうえお順で入っていただけませんか、ということだった。
夕食ですでに打ち解けていたので、子供がいる人はあいうえお順に関係なく優先するなど、自然とお互いに配慮し、入浴はスムーズに進んだ。
二十二時を過ぎた頃、巫女さんが消灯させていただきます、と明かりを消しに来た。
明朝は六時に起床のお知らせに参ります、と告げ、明かりが消された。
消灯すると、咳払いとか、低い小さな声の短い会話がしばらく聞こえていたが、それもやがて収まり、静寂が訪れた。
静かだ――。
俺も自然と呼吸が深くなり、眠りに落ちた。
◇
心地よい眠りに落ちていたはずなのに、俺はパッと目が覚めた。
体内時計がいつも起きる時間を察知し、目覚めたのかと思ったが、部屋はまだ真っ暗だ。
どう考えてもまだ寝ていていい時間だ。
俺は寝返りを打ち、再び目を閉じようした。
あれ? 狭霧は……?
狭霧は俺の右隣で寝ているはずなのに、その姿がない。
布団は綺麗に整っている。俺は狭霧の布団の掛布団をめくり、中に手を入れてみた。
まだ温かい。……あ、トイレか。
今日は最強に平和な夜、余計な心配はしなくて大丈夫だ。
俺は敷布団を首のところまで引き上げると目を閉じた。眠りはすぐにやってきた。
次に目覚めたのは、見ていた夢の区切りのところだった。
どんな夢かは思い出せないが、何かが終わった瞬間に目が覚めた。
瞼は半分閉じており、もう一度目をつぶれば、またすぐ眠りに落ちそうだった。
そこで目を閉じようとして、俺は気づいた。
……あ、れ? 狭霧、まだいない⁇
部屋は薄暗く、さっき目覚めてからどれぐらい時間が経ったか分からなかった。
俺は手を伸ばし、再び狭霧の掛布団の中を確認した。
……冷たい。
眠気は吹き飛んだ。俺は体を起こし、周囲を伺った。
起きている人は誰もいないようだ。
俺は静かに布団から出ると、トイレに行ってみることにした。
大部屋を出ると廊下には常夜灯が灯されていた。
真っ暗じゃなくてよかった……。
俺はなるべく足音を立てないようにトイレへ向かった。
トイレは電気がついていなかった。
トイレにはいない……?
真っ暗闇の中で用を足す人は少ない気がするので、いないとは思ったが、念のため確認することにした。
電気のスイッチ、ここか。
俺は恐る恐る手を伸ばし、スイッチを探りあてた。
パチッという音の後にチカチカとしながら蛍光灯がついた。
トイレには小便器が二つ、個室が一つあった。
個室を開けるときは心臓がドキドキしたが、開けるともぬけの殻で、力が抜けた。
端末で時間を確認すると、午前二時四十五分だった。
あ、お風呂場……。
寝つきが悪くてもう一度体を暖めようとした可能性はある。
俺はトイレを出て、風呂場へ向かった。こちらも当然真っ暗だ。
脱衣場の電気をトイレの時と同じように探ってつけると、中へ入った。
浴室も真っ暗だ。
この時点で浴室に狭霧がいる可能性は低かったが、念のため確認。
こちらもトイレの個室同様心臓がドキドキしたが、パッと明るくなると、清潔な洗い場とまだ湯気をたてる浴槽があるだけで、俺の緊張感も収まった。
とりあえず、一旦自分の布団へ戻ろう。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
真夜中の真っ暗なトイレやお風呂場はもうそれだけでなんだか怖さがあると思いませんか。
引き続きお楽しみください。




