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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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宿泊棟

長清神社は町の避難所の一つだった。


社務所の隣には、避難した人が寝泊まりできるよう、宿泊棟が建てられていた。


宿泊棟の一階には、広めの調理場と食事をできるスペースがあり、炊き出しができるようになっていた。二階と三階は同じ作りで、襖で仕切ることができる大部屋があり、他にトイレや洗面所、お風呂場、物置などがあった。


有志で手伝いを申し出た男性十名は二階と三階の大部屋の布団を敷く担当に、女性十名は調理場で炊き出しとなった。


見ず知らずの人が集まったのに、協力して作業をしていると、自然と会話も生まれ距離も縮まった。


大部屋で布団を敷く俺たちをまとめてくれたのは、田畑さんという男性だった。田畑さんは拝殿で俺たちの隣にいた男女の男性の方だ。


田畑さんは敷布団を敷く人が二人、敷布団カバーをセットする人がニ人、掛布団を出す人が二人、掛布団カバーをつける人が三人、枕を出す人が一人と業務分担を提案し、俺と狭霧、田畑さんは掛布団カバーをつける担当になった。


「カバーを裏返して広げて、掛布団の上に置き、紐を全部結んで、こうやってカバーをひっくり返すと、あっという間に完成だよ」


「すごい!」


俺たちが声を揃えて賞賛すると、独身時代が長く、家事の効率化を追求した結果だと笑った。


「僕なんかより、君たちの方が断然すごいよ。この町で黒影といえば、スーパーヒーローだからね」


五年前から採掘場で働いているという田畑さんは、昨年この町で出会った女性と結婚し、この神社で神前式を行った。今日は丁度結婚一周年だったので仕事を休み、奥さんとこの神社に来ていたそうだ。


「まさか窃盗団が町まで来るなんて驚きでした。しかも雨降ろしでここに泊まることになるとは……。忘れられない結婚記念日になりそうです」


田畑さんは話していても、とても気持ちのいい人だった。


二階、三階と布団を敷き終えて、一階へ行くと、調理場は女性たちがおしゃべりする声で大賑わいだった。


「狭霧、この香り、カレーかな」


「そうだね。……急激にお腹が空いてきたよ」


用意にはまだ時間がかかるとのことだったので、俺たちは拝殿へ戻るため、渡り廊下を歩いていた。


「あれ、本殿かな」


狭霧に言われて左の奥を見ると、ぼんやりとだが、大きな建物があるのが見えた。


すっかり暗くなっていたのとミストの影響で、周囲の景色は水墨画の世界のようにぼんやりとしていた。


「拝殿の丁度裏手だし、本殿だろう」


宿泊棟へ向かっている時は気が付かなかったが、俺たちの歩いている渡り廊下は右に行くと拝殿、左へ行くと本殿へつながっているようだった。


「そういえばこの神社の御神体って誰なんだろう?」


沈黙。


あれ、狭霧⁉


てっきり横にいると思った狭霧は、さっきの渡り廊下の分かれ道で立ち止まっていた。


「狭霧、どうしたんだ?」


俺は狭霧のいるところまで戻り、声をかけた。


「え、あ……。ごめん。なんか声が聞こえたような気がして」


「え、どこから⁉」


「……本殿の方から」


えっ、本殿真っ暗だよな。声なんてするわけないよな。


俺は自分が幽霊とか得意ではないことを思い出した。


その瞬間、暗闇にぼんやり浮かぶ本殿が不気味に思えてきた。


「狭霧、本殿は真っ暗だし、人はいないよ。拝殿に戻ろう」


俺は狭霧の手をぐいぐい引いて拝殿へ戻った。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

狭霧は怪奇現象は大丈夫ですが、夏によく出る黒い虫は苦手です。

それでは引き続きお楽しみください。

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