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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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目覚めた狭霧

俺と陽菜の声に応えるように、狭霧はゆっくりと上半身を起こした。


「良かった、意識が戻ったんだな」


「ああ。とても静謐な香りが鼻孔に広がって、意識が覚醒した」


「気分はどう~? 今、お茶もらうね」


陽菜はそう言うと巫女さんに声をかけた。


「どこか痛いとか、ないか?」


「うん、大丈夫そうだ。むしろ、じっくり休んですっきりした上に、香りのおかげで元気もわいてきた」


「はい、狭霧、お茶。まずは一口飲んでみて」


「ありがとう、陽菜」


狭霧は陽菜から受け取ったお茶を飲み、「美味しい……」としみじみとつぶやいた。


「このお茶を飲んで、さらに元気が出た気がするよ」


「良かった。実はこのお茶は……」


俺はこのお茶がどんなお茶であるか、木ノ花先生から聞いたことを話し、さらにどうして今ここにいるのか、雨降ろしのこと、町の様子、鳥居で起きたこと、そして俺たちにとってはとても重要なじっちゃまの正体のことなどを狭霧と陽菜に話して聞かせた。


二人とも真剣そのものの様子で俺の話を聞いていた。


「まさかじっちゃまの正体が陰陽頭だったなんて、陽菜、超驚き~。あれだね、だん先輩の読みが当たっていたね」


「そのようだね。しかし、陰陽頭がそんなお茶目な人だと思わなかったよ」


陽菜も狭霧も今聞いた話の中で、じっちゃまの正体に一番反応していた。


「あーー、天野くん、気が付いたの?」


木ノ花先生が箱のようなものを持って戻ってきた。


「どう、天野くん、どこか痛いところとか、おかしいところ、ない?」


木ノ花先生が俺と同じ質問をしたので狭霧は笑いそうになっていたが、それを堪え、俺に答えたことを律儀に繰り返した。


「そうなの。それはまさにミストのパワーね。元気そうだし、問題ないとは思うけど、防衛本部に帰ったら検査ね。というか天野くん、急速に神の力が発現しているわね。ミストの香りは私には感じられないもの。あ、鳥居でも三人とも匂いを感知していたわよね。天野くんも黒雷くんも、神嗅覚が発現したのね」


俺と狭霧はハイタッチで神嗅覚の発現を喜んだ。


「こんなにいい香りなのに、みんなが感じられないの残念だね~」


陽菜の言葉に木ノ花先生が「そんなことはないのよ」と答えた。


「香りは感じられないけど、雨降ろしの日はみんなが落ち着いて幸せな気持ちになるのよ。不思議と。だからなのか雨降ろしの日の犯罪はゼロ。警察も閑古鳥。もちろんみんなが外出しないから、って言うのもあるかもしれないけどね」


そこまで話して木ノ花先生は慌てた表情を浮かべた。


「! 天野くんは気絶していたから、何が起きているか分からないわよね⁉」


俺が木ノ花先生が席を外している間にすべて話したことを伝えると「黒雷くん、ナイス!」と笑顔を見せた。そして手にしていた箱を陽菜に渡した。


「あ、はい。これ、ここの神社でお土産用に発売されているわらび餅。ちょっと食べにくいかもしれないけど、中に楊枝が入っているからそれを使って食べてね」


そして陽菜を端に呼び出すとこそっと何かを渡し戻ってきた。


「これから炊き出しをするっていうから、私は手伝ってくるから、三人はここで待っていて」


「え、それなら陽菜も手伝います」


「俺も手伝います。料理……したことないけど」


「じゃあ僕も手伝います」


俺たちがそう木ノ花先生に言うと、隣にいた男女の女性の方が「私も手伝いましょうか」と声を上げると、近くにいた人も次々と名乗りを上げた。


「皆さんありがとうございます。どれぐらいの人手が必要か、聞いてきますね」


そう言って木ノ花先生は廊下をかけて行った。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

ミストの力で狭霧も目覚めました。

引き続きお楽しみください。

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