影の血
「木ノ花先生、雨降ろしのことはよく理解できたのですが、影の血のことを詳しく教えてください。血なのに人型になるとか、それで攻撃するとか、俺、驚きました」
「お話中、すみません。お茶はいかがですか?」
さっきとは別の巫女さんがすぐそばにいた。
「あ、いただきましょうか」
木ノ花先生が返事をし、俺たちは湯飲みに入ったお茶を受け取った。
一口飲むと、ホッと安心した。
「美味しい~。京都のお茶を思い出すなぁ……」
陽菜がつぶやいた。
「生き返るわねぇ。長清神社のお茶は有名なのよ。ここにいる権宮司の方がお祓いをしているから、運気アップとかいろいろご利益もあるって言われている。って、そうじゃなくて、影の血の話ね。影の血は黒い影の分身のようなものなの。何滴か飛び散ったぐらいなら問題ないけれど、ある程度まとまった量だと厄介なのよ。なんか黒い影が分裂してもう一体できる、みたいな感じで。分身を作れば作るほど本体は弱くなるし、生み出された分身もあくまで本体から分かれたものだから、力は本体の半分。しかも沢山分身を作れば、それだけ弱くなるから、通常はそこまで脅威ではない。とはいえ、触れれば浸食……浸食も初耳よね」
こくりと俺と陽菜は頷く。
「浸食はその人の中に入り込んでしまうことで、西洋だと悪魔に憑りつかれたっていう表現があるけど、そんな感じね。急に人格が変わって言動がおかしくなったりして、放っておくと黄泉の国に行く羽目になっちゃう。そして今回は巨大な蛇の姿で現れたでしょう、黒い影が。確かひまりの報告だと、全長約十二メートル幅約三メートル。とんでもない大きさよね。このサイズで血をまき散らしたとなると、一滴一滴の量が多いはず。しかも町中のいたるところにまき散らしたとなると、各個撃破は時間を消耗するだけ。それに見落としがあったら大変。雨降ろしで対応が、ひまりが言うところの最適解ね」
「影の血は浸食をする、というのは分かりました。狭霧に襲い掛かったような攻撃もするんですか?」
俺の言葉に木ノ花先生は首を振った。
「影の血は人間に浸食して、その人間を操って誰かを攻撃することはあっても、影の血自体が攻撃を行うという事例は聞いたことがないわ」
「ひまり先輩も陰陽頭も、巨大蛇型の黒い影はただの黒い影じゃないって言っていたよね。それの血だから、やっぱり規格外なんじゃない?」
陽菜の言葉に木ノ花先生は「そうだと思うわ」と頷いた。
陰陽頭と聞いて、俺は気になっていたことを思い出した。
「雨降ろしの最中でも結界の応急措置とかできるんですか?」
俺の質問に木ノ花先生は「もちろん」と即答した。
「神の力が発現している人にとって、雨降ろしのミストはむしろ力の強化に役立つぐらいなのよ。今頃、陰陽頭、絶好調で応急処置をしているわね。『面倒をかけおって』ってブツブツ言いながら」
その様子が想像できて、俺は思わず笑ったが、陽菜はキョトンとしていた。
そうだ、陽菜は陰陽頭の姿をまだ見ていない……。
「あ、なんだか清らかないい香りがする」
陽菜の言葉に木ノ花先生が外を見た。
「あ、少しずつ、ミストが来ているんじゃない」
そう言われて外を見ると、景色がぼんやりしている。
それに暗くなってきたな。
自然現象として俺のお腹が夕食を期待し、ぐ~と鳴った。
「蓮、お腹空いたの?」
「まあ、晩御飯の時間が近いかなと」
「いろいろあったからお腹も空くわよね……。ちょっと何かないか探してみるわね」
木ノ花先生が立ち上がった。
「大丈夫ですよ、先生」
恐縮する俺に対し、陽菜は
「お願いしまーす! あ、あと先生」
陽菜は木ノ花先生にヒソヒソ話をした。
「えっ、そうなの。それはあるかわからないけど、聞いてみるわ」
「よろしくお願いします!」
陽菜は木ノ花先生を見送ると、待ってましたとばかりに俺を見た。
「何があったのか教えて、蓮!」
なるほど。俺と話したくて木ノ花先生を行かせたのか。
「……僕も何があったか知りたいな」
「狭霧!」
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