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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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雨降ろし

本部への連絡を終えた木ノ花先生が小走りに戻ってきた。


「いよいよ始まるわね」


そう言うと俺たちの隣に座った。


「あの、さっき巫女さんに聞いたんですけど、雨降ろしは半日がかりとか……。俺たち今日はもう寮に……防衛本部には戻れないんですか?」


「ああ、そうだった。あなた達は雨降ろしは初めてだったわね。そう時間がかかるから、今日はここで夜を明かすことになるわ。町の方では窃盗団の襲撃があった、ってことになっていて、いくつかの建物で火の手が上がったから、雨降ろしが始まるってことになっているの。雨降ろしは年に何回かあるから、町の人は慣れているから落ち着いているでしょ」


そう言われて拝殿に避難した人を見ると、皆、端末を見て情報を得たようで、騒ぐことなくお茶を飲んだり、話をして寛いでいる様子だった。


木ノ花先生は話を続けた。


「雨降ろしには二つの要素があって、一つは水不足の解消、もう一つが今回の浄化ね。前者の時は普通に雨がザーって降るのだけど、後者は普通の雨とちょっと違う。とっても粒子の細かい雨が、霧雨よりもっと細かい雨が降るの。この言い方はちょっと違うわね。この辺り全体を覆い、満ちていくの」


「ミストシャワーみたいな感じ?」


陽菜の言葉に木ノ花先生は「そう、それ!」と大きく頷いた。


「ミストが静かにこの辺り一帯に降り注ぐの。家の外はもちろん、家の中にも入ってくる。しかもただのミストじゃなくて、神の力が宿っている。このミストを吸うことで、私たちも浄化されるし、黒い影からの防御になる。そしてもちろん、影の血がどこかに忍び込んでいようと、この霧に触れたらおしまい、ってわけ。で、このミスト、ゆ~っくり広がっていくから、半日がかりなの」


ミストが降り注ぐ景色は絵画のように幻想的なのではと思えた。


「それで不思議なことに、このミストは地面に触れると、通常の雨粒に戻るの。つまり、雨粒が地面にあたると水が跳ねたり、水たまりができるでしょ。さっきまでミストだったのに、地面に触れると雨粒になるから、外にいると足はびしょびしょになっちゃう。で、この水に一般人の人が長時間触れていると、気絶したり、酩酊状態になっちゃうの。浄化の濃度が一般人には強すぎるのね。だから雨降ろしの日はみんな家にいる。まあ、緊急時をのぞき、通常は夜、みんなが寝ている間にやるのだけどね。その日は寝坊してちょうどいい、みたいな」


木ノ花先生が説明を終えた時、少し離れた場所に座る女性グループの声が聞こえてきた。


「今頃、翔くんが雨降ろしの儀式をしてるのよ、きっと」

「あの狩衣姿で神事をしているのよね、さぞかし美しく、優雅なんでしょうねぇ」

「もう想像しただけでうっとりしちゃわ~」

「ね~~~」


洩矢先輩が人気であるとは聞いていたが、実際に町の人の声を聞くと、その熱狂ぶりがよく伝わってくる。


陽菜はこの女性達の会話を聞き、木ノ花先生にこんな質問をした。


「町の人は黄泉の国の軍勢、黒い影のことは知らなくて、何か起きると窃盗団の仕業だと思っているんですよね? でも雨降ろしや黒影のことは、知っているんですよね……? 神の力が発現しているとか、神降ろしができるとか、天の羽衣で空を飛べるとか、そーゆうこともみんな知っているんですか⁉」


陽菜の問いに木ノ花先生はこの町の仕組みを説明した。


「この町の住人は、みんながサインした機密保持契約書とほぼ同じ書類に署名をしているの。この契約書はね、ただの契約書じゃないの。署名と同時に陰陽頭の術が起動する仕組みなのよ。つまり、言っちゃダメよ、って言われても、帰省して誰かに聞かれた時にうっかり話してしまったり、お酒を飲んで気が緩んで話してしまうことがあるかもしれない。そんな場合に備え、黒影に関する情報は町の外では思い出せないようにする術がこの町の住人にはかけられているの」


「そうなんだ!」と陽菜と俺は声を揃えて反応していた。


「だから黒影に関する情報、さっき陽菜が言っていたようなことは町の人も知っているわ。黄泉の国の軍勢や黒い影、影の血のことを伏せているのは、それが現れるのはこれまで金山だったということと、神の力が発現していないと見えないからややこしいというのもあるけど、これまで金山統括庁では一貫して窃盗団の仕業ということで通しているから、良くも悪くもそれを踏襲している感じね。さすがに金山に配置されている警備員とか、職務上知る必要がある人は黄泉の国や黒い影のことなんかも知っているけど、同じく契約書にサインしているから、術がかかっている。よって口外の心配はなし、って感じね」


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

洩矢先輩、やはり人気ですね。

引き続きお楽しみください。

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