拝殿へ
時が動き出した瞬間に、陽菜、木ノ花先生、リツコ先輩が来て、でも俺の頭は起きた出来事の処理が追いついていなくて……。
あの場にひまり先輩が来てくれて本当に良かった。
ひまり先輩の報告のおかげで、頭の中が整理できた。
あの時、俺はてっきり狭霧の首が……切り落とされたと思って、凍り付いた。
文字通り、血の気が引き、動けなくなった。
でも、玉砂利の上を鞠のように転がった頭部は、黒い影……影の血のものだった。
俺は狭霧が生きていたことを心から喜ぶのと同時に、黒い影との戦いにおいては、一瞬も気を抜けないのだと強く胸に刻んだ。
それにしてもじっちゃま改め、陰陽頭、強すぎる……。
一蹴りで首を落とすのはもちろん、狭霧の浄化を瞬時に行い、何よりも時の流れを緩やかにすることもできるなんて……。
絶対、金山統括庁の応接室で俺たちにこの術をかけたんだと、俺は思った。
……そう考えると、その術の中でも声を出せた狭霧はすごいよ。って何気に俺も目は動かせたんだからすごい、よな?
「ウーーーーーーーウーーーーーーー」
突然の警報音に俺の思考は現実に戻る。
「事前警報が発令されたわね。拝殿までもう少し。急ぎましょう」
木ノ花先生が狭霧を背負う俺を見た。
「了解です」
俺はそう言うと、足をさらに速めた。
陽菜はさっきからずっと俺と話したそうだったが、避難が先とわかっていたので、押し黙って俺の横を走っていた。
「さあ、着いたわ」
拝殿に着くと、そこには避難した人が沢山集まっていた。
「あ、あの、警報がなりましたが、拝殿の中へ入ってもいいのでしょうか……」
鳥居で見かけた女性が不安そうな顔で木ノ花先生に尋ねた。
「あ、あなたは鳥居の……! 奥にいた人にも声かけてくださったんですね。ありがとうございます。もちろん拝殿の中に入っていただいて大丈夫です。あと虎は捕まりましたので、安心してください」
女の人は「わかりました。ありがとうございます」と頭を下げると、周囲の人に「雨降ろしが始まる前にみんな、拝殿の中へ入りましょう。虎は捕まったそうですよ」と声をかけた。
「私たちも入りましょう。黒雷くん、天野くんをここまでありがとうね」
「狭霧、痩せているから楽勝でした」
俺たちは避難してきた人達と一緒に拝殿の中に入り、ようやく落ち着くことができた。
木ノ花先生は本部と連絡するため、拝殿の入口の方へ向かった。
俺は狭霧をおろし、畳の上に横たえた。すると……。
「良かったらこちらをお使いください。その方は具合が悪いのですか?」
綺麗な巫女さんが俺に声をかけ、座布団を渡してくれた。
「ありがとうございます。ちょっと気絶していますが、問題ありません」
俺は座布団を受け取り、狭霧の枕にした。
「そうですか。わたくしたちは皆さまと一緒にこの拝殿におりますので、何か困ったことがありましたら、声をかけてくださいね。雨降ろしは始まると半日はかかりますので」
そうなのか。そんなに時間がかかるのか。
「はい、お気遣い、ありがとうございます」
俺の言葉ににっこり微笑むと、巫女さんは隣の男女のグループに声をかけた。
気が付くと、あちこちに巫女さんの姿があり、座布団を渡したり、お茶をだしたりしていた。
「ちょっと蓮、鼻の下伸ばしている場合じゃないでしょー!」
「いや、鼻の下なんて伸ばしていないよ」
「ウーーーーーーーウーーーーーーー」
警報音が鳴った。
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無事、拝殿に到着しました。さてこの後は……?
引き続きお楽しみください。




