木ノ花先生と須虞那先生
俺たち三人は互いの目を見た。須虞那先生は、第三次討伐作戦について知ることは命に関わることだと言っていた。木ノ花先生に感づかれて大丈夫なのか、と、緊張感が走った。
「もう、みんなそんな怖い顔しないで。私は紬と同期入隊で、もう十年の腐れ縁よ。第三次討伐作戦で紬が何を見て、何を考え、何を決断したのか。そしてどんな覚悟で頭領になり現在に至るのか、全部知っているわ。どれだけの回数、屋上の東屋や寮の部屋で話したか、思い出せないぐらい」
木ノ花先生はそういうと、組んでいた足を戻し、背もたれにもたれかかった。
「歓迎会での春秋さんと天野さんの騒動、あれを見た紬が無言を貫きとおすなんて考えられない。だって紬は天野頭領があの日あの時、何をしたのか、目の前で見ていたのよ。天野頭領が恨まれるようなことは一切していないと知っていた。だから誤解して怒りをぶつける春秋さんを見ていられなかった。何も知らずその怒りをぶつけられるのは当然と耐える天野くんを放っておけるはずがない」
そう言うと、木ノ花先生は俺たちを真剣な目で見た。
「覚悟を決めたから、紬から話を聞いたのよね? みんなが覚悟を決めたなら、私だって覚悟を決める。あなた達が第三次討伐作戦について知っている、ということはあの世まで持っていく秘密よ」
その言葉を聞いて、俺たちの緊張の糸はほぐれ、大きく息を吐いた。
そして三人で深く頷いた。
すると木ノ花先生はニッコリと笑顔を見せた。
「私を信じてくれてありがとう」
そう言うと再び教壇へ戻った。
「第三次討伐作戦について知っているとなると、今日の授業は半日で終わっちゃうかもね」
いつもの木ノ花先生に戻っていた。
「そうしたらここからは質問形式で進めましょう。以前は聞かれても答えることができなかったことも、今はもう気にせず話せると思うから、なんでも聞いてみて」
すると陽菜が元気よく手をあげた。
「あ、じゃあ、歓迎会の秘密、知りたいです」
「いいわ。ひまりがエレメント使いであることは知っている?」
「はい」と俺たちは頷いた。
陽菜には食事の時間を使い、ひまり先輩とのことも一通り話していた。
「食堂が池のようになったのは、ひまりが水のエレメントで部屋を満たしたからなの。その満たし方も独特よ。水の周りに薄い空気の膜を、風のエレメントで作っていたの。舟がのる水面はそのまま。食堂の床や壁にあたる面にその膜を作ったから、食堂はびしょぬれにならないで済んだの。あと天井の桜。あれは春秋さん。神の力以外に、神降ろし、というのがあるのだけど、これは知っている?」
神降ろしという言葉は初耳だった。三人とも知らないと首を振った。
「神降ろしっていうのは、一時的に神が権能として持つ力を借り受けることなの。そしてこの神降ろしは、神の力を持っていても、できる人とできない人がいる。なぜできる人とできない人がいるのか、その理由ははっきりとは分からないの。陰陽師の小笠原久光……あ、小笠原さんのことは知っているわよね?」
「はい、知っています」
木ノ花先生はよろしい、という感じで頷き話を続けた。
「小笠原さんは役職名でみんなに呼ばれているから、陰陽頭って呼ぶわね。その陰陽頭によると、借り受けようとする神となんらかの縁があると、神降ろしができるらしいの」
「ということは~、春秋先輩は桜の神様とご縁があり、神降ろしで食堂の天井を桜で満たしたのかな⁉」
「残念ながらはずれよ、陽菜。春秋さんと縁があったのは春の女神。桜が美しく咲く山の神霊よ。だから神降ろしで満開の桜を出現させることができたの」
「うわぁ、なんか素敵ですね。私も素敵な神様と神降ろししたい♡」
陽菜の瞳がキラキラ輝いた。
「あの神降ろしのような神事を歓迎会のためにしていいんですか?」
狭霧は逆に恐縮している。
「本来はダメだと思う」
木ノ花先生は苦笑いした。
「ですよね。春秋先輩はとても真面目な方です。その先輩に無理強いしたんですか」
狭霧の様子に木ノ花先生は「おやっ?」という顔をした。
「……ちょっと脱線。天野くん、春秋さんと歓迎会以降に話したりした?」
「あ、はい。須虞那先生から第三次討伐作戦について話を聞いた時、春秋先輩も一緒でした」
「そっか、そっか。そうしたら誤解は解けたわけね」
「はい」
「それは良かったわ。天野くんの言う通り、春秋さんはとっても真面目で真っすぐな子なの。黒影の隊員って一堂に会する機会が少ないのよね。だから年に数回ある、みんなが集まる機会をとっても大切にしているの。春秋さんもその気持ちは一緒で、自分から提案してくれたのよね。満開の桜を見たら喜んでくれるんじゃないかって、ね」
初対面の印象が、狭霧に殴りかかろうとしている最悪なものだったけど、佐保先輩は、だん先輩も言っていたけど、根は本当にいい子なんだろな。
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陽菜は歓迎会の謎が解け、かなり満足なようです。
引き続きお楽しみください。




