おや?
「だん君と廃墟に行ったとき、皆さんは怪奇現象に遭遇したと報告書には書かれていました。天野くんは黒い人影に、黒雷くんには黒い靄に見えた。そして陽菜を襲う黒い手のようなものを二人は見た。陽菜はその黒い手に襲われそうになった時、強い臭気を感じていた。そう。この黒い何かが、黒影が戦う相手なのです」
木ノ花先生は俺たちの顔を順番に見た。
「レジュメを見て下さい。そこに
黄泉の国:死者の世界
葦原の中つ国:地上世界(人間)
高天が原:天津伸が住む世界
こう書かれていますが、皆さん、ご存じですか?」
つい最近聞いたばかりで当然みんな知っているので頷いた。
「みんな知っているのですね。知ってはいても、これが現実に存在するとは思っていないのでは? 神話の世界の話と思っていませんか」
ごくごくつい最近までは、そういった世界はファンタジーであり、ゲームやアニメの世界の話と思っていた。だが今はバッチリその存在を信じていた。
だからみんな首を振った。
木ノ花先生は「おやっ」という感じで右の眉をあげたが、すぐに気をとりなおして話を進めた。
「ここに書かれている黄泉の国、すなわち死者の世界ですが、皆さんがだん君と行った廃墟で遭遇した怪奇現象は、この黄泉の国から現れたと考えられています」
皆、無言だ。木ノ花先生はその様子を見て、満足気な表情になった。
「驚くのは無理もありません。現実に存在する、とは思っても、自分がその世界と関わるとは思っていなかったでしょう。でもこれは間違いなく現実です。この黄泉の国から現れた者に、皆さんが遭遇したのは廃墟でした。天野くんと黒雷くんは、町へ向かう途中にある休憩所でも遭遇していますが、出現場所はここだけではありません。金剛お台場山でも出現します。出現する……というレベルを実は超えています」
そう言うと木ノ花先生はみんなを見て「笑わないで聞いてね」と前置きしてから続けた。
「黄泉の国は地底にあると考えられていました。そしてそれは事実でした。一連の災害で地底にあった黄泉の国は隆起しました。そして隆起した黄泉の国はどこにあるのか? 我々の目の前にあります。そう、金剛お台場山は金山であると同時に、その奥深くで黄泉の国とつながっていたのです」
通常、ここで「???」「まさか」「冗談ですよね」とかの反応が出るのだろうが、俺たちは真剣そのもので聞いていた。
さすがに違和感を覚えたようで、木ノ花先生の表情が訝し気なものに変わったが、話は続けるようだ。
「金剛お台場山では過去に黒い何かの目撃情報が何度もありました。ここから機密情報なので、口外禁止ですが、実は金剛お台場山では行方不明者が出ています。公では窃盗団の仕業とされていますが、東京での見解は違います」
木ノ花先生は大きく息を吸うと一気に話した。
「金剛お台場山は黄泉の国とつながっていた。そして坑道を掘り、採掘をする過程で、この黄泉の国につながる入口を意図せず作ってしまった。その結果、そこから黄泉の国の軍勢と呼ばれる、黒い影が現れたのです。この黒い影とは死者のことで、触れられると生命力を吸い取られてしまいます。生命力を奪われると退行が進み、大人の体から子供の体へ、子供の体からやがて赤ん坊になり最後は消えてしまうのです。そして行方不明と考えられている人たちはこの黒い影によってこの世から消されてしまったと考えられているのです。そして。黒影が戦う相手、それこそが黄泉の国の軍勢なのです」
言い切った!という表情で木ノ花先生は俺たちを見た。
俺たちは真剣に頷いた。
すると。
「あ~、やめ、やめ。で、みんな、どこまで知っているの?」
木ノ花先生は教壇におかれた椅子に座ると、足を組み、肘をついてふてくされたような顔で俺たちを見た。
「木ノ花先生、僕たちは真剣に先生の話を聞いているだけですよ」
狭霧がそう言うと
「それがおかしいのー。私が今まで話したこと、何も知らない人が真剣に聞くと思う? 何も知らずにこの話を聞くと、『この人は何を言い出したんだ?』っていう表情になるの。クスクス笑いが漏れたり、隣の席の人と『どーゆこと』ってヒソヒソするのが普通なのー」
木ノ花先生はまるで俺たちと同級生のような口ぶりだ。
「……聞いたのでしょう、紬に……須虞那先生に」
木ノ花先生がため息をついた。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
須虞那先生にどこまで聞いたのかと問う木ノ花先生。
蓮たちは一体どう答えるのでしょうか⁉
引き続きお楽しみください。




