本当の関係
「春秋姉妹の家と四尊先輩の家はご近所同士だった。でも四尊先輩は子供の頃から病弱で喘息の持病もあったし、外へ出て遊ぶことも少なかった。だから姉妹とも子供の頃から仲良く一緒に遊んだりして育った、みたいな関係ではなかったそうだ。ただ、春秋竜美は優しく面倒見もよく、しっかりしていたから、たまに外へ出て近所の子供に『弱虫』みたいな感じでいじめられている四尊先輩を見ると、助けてあげていた。その結果、四尊先輩は春秋竜美に好意を持つようになり、それを親に打ち明けたかどうかは分からないけど、ともかく縁談の話を四尊先輩の両親が春秋家に持ち込んできた」
この時点で俺が想像していた二人の関係とはかなり違っていた。
「四尊家は代々その地に続くお寺の家系だったけど、春秋家は姉妹の両親の代で引っ越してきた、地域の中では新参者。お寺の住職ともなると、法事や何やらで地域住民とのつながりも深いし、力もある。そういった力関係も働き、春秋竜美は四尊先輩の許婚になるしかなかったそうだ。春秋先輩によると、別の縁談の話があり、それに春秋竜美は乗り気だったが、それを蹴って四尊先輩の許婚になった」
「そうだったのか……」
「だから春秋先輩はあまり、というか、全然四尊先輩のことを気にしていなくて、姉と一緒に入隊したと思っていたが、実は持病が悪化して遠方で療養していた、という話を当時聞いた時も、特に何も思わなかったそうだ。むしろ春秋先輩が黒影を志願していることをどこからか聞きつけ、四尊先輩も再度入隊を志願したことを気味悪く感じていた。春秋先輩は姉の敵討ちという目的があって黒影に入隊したが、四尊先輩は何が目的で入隊するのか分からなかった。だから同期で入隊したとはいえ、関わることはなかったらしい」
「俺が聞いたら夜見先輩は、佐保先輩が入隊したから自分も入隊したという口ぶりだったけど……」
「うん。そうなんだよ。実際四尊先輩本人に春秋先輩は入隊理由を聞いたことがあったけど、その答えは『だって佐保さんが入隊されるから。ふふ』みたいな返事だったから余計に距離をおいていたらしい。だから今回、四尊先輩も実は黒い影に触れていて、退行していたという件を聞いても『そうなんですね』っていう感じだった」
「な、なるほど……。でも須虞那先生の話だと、黒い影に夜見先輩が襲われそうになった時、春秋竜美が駆け付けたんだよな?」
「うん。その話を聞いた春秋先輩は、助けに駆け付けたのは頭領のためが九十%と言っていたよ。あと、夜見先夜見に駆け寄ったのは、頭領には沫那美先輩がついていたから、という見解だった。いじめっ子にいじめられている子がいたらいち早く駆けつけるのが春秋竜美だったから、同じ感覚で助けたに違いないって。もしそこに許婚の危機にいち早く駆けつけたという要素を感じるなら、それは須虞那先生が二人が許婚同士と知っていたから、頭の中で勝手に脚色しているに過ぎないって」
「随分手厳しいな」
俺は思わず苦笑した。夜見先輩が少し可哀そうになってしまった。
! 違う。夜見先輩といえばあの倉庫での行動だ。
俺は倉庫で見た夜見先輩について狭霧に話して聞かせた。
「そうか……。『発現する前に 天野を』そう夜見先輩は言っていたのか」
狭霧は腕組みをした。
「発現というのは神の力のことだろうね。神の力を僕が発現する前にどうしたかったのかな、夜見先輩は」
狭霧は苦笑した。
「それに俺はこれを誰と話していたのかが気になる。狭霧に何か仕掛けようとしているとして、仲間がいる、ということになるのだから」
「まあ、そうだね」
そう言ってから狭霧はベッドにパタリと倒れた。
「廃墟に行って陽菜が黒い大きな手、あれは黄泉の国の軍勢なのかな。あれに襲われそうになった時、だん先輩が『触れないで』って言ってくれなかったら、僕は触れてしまっていたと思う。休憩所の時もそう。ひまり先輩が適切に指示を出してくれたおかげで、あの黒い影……黄泉の国の軍勢に触れないで済んだ。そして二つの現場に、四尊先輩がいた……」
狭霧の言葉に俺は黙るしかなかった。
偶然、とはいえ、二回も現場に夜見先輩が現れ、しかも夜見先輩は狭霧に対して何か企んでいる……。
それは言葉にせずともわかることだった。
「夜見先輩の件は須虞那先生にも話してみよう。何かアドバイスをもらえるかもしれないし」
「そうだね」
そう言うと狭霧はベッドから体を起こした。
やっぱり元気がなさそうだ。少し話題を変えてみようか。
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次回更新のタイトルは「屋上の庭園にて」です。
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