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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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狭霧と佐保先輩

「だいぶ、時間が経っちゃったね。陽菜は町から戻ってきたかな」


狭霧は明るい調子でそう言った。

本当はそんな明るく話せる状況ではないはずなのに。


死んだと思った父親は死んではいなかった。

赤ん坊になっていたのだ。

しかも現在どこにいるかも分からない……。

生きているのか、あるいは死んでいるのか。


黄泉の国の軍勢や夜見先輩のこと、新たに分かった出来事で気になることは沢山ある。


けれど、狭霧を中心にこの須虞那先生が話してくれた第三次討伐作戦について考えると、今、狭霧が一番気になっていること、それは間違いなく父親のことだ。


「今の金山統括庁のトップは熱田大臣だ。熱田大臣なら、天野頭領が今どうなっているのか、知っているんじゃないか?」


「うん。実はその件について、須虞那先生は気になっていることがあるそうだ。今度熱田大臣に面会の時間を作ってもらうらしい。第三次討伐作戦について、蓮や陽菜が僕から聞いた上で、さらに真相を知りたいなら、一緒に熱田大臣に会いに行こうって」


「なんだ。それなら話は早い。今の話を陽菜にして……」


「実は今蓮に話したこと、録音してあるんだ」


「え、そうなのか⁉」


「須虞那先生から話を聞いた時、メモをとるわけにはいかなかった。だからメモ代わりに録音しておいたんだ。これを陽菜に聞いてもらうよ。……なにせ話せば長くなる、じゃないけど、本当に長い話だから、もう一度話すのは大変だしね」


狭霧らしい判断だった。かなり重い話を聞いて、疲れ切っていると思ったら、そんなことはなかった。


狭霧は強い。


「あれ、でも、須虞那先生はこの話を佐保先輩にもするつもりなんだよな?」


「あ、うん、それなんだけど、スタッフ休憩室に行ったら、春秋先輩が既に部屋にいたんだ」


「そうなのか⁉」


「須虞那先生は本当はこの話を僕たちの訓練が進んで、神の力が発現してから話そうと思っていたらしい。ほら、神の力とか説明もややこしいだろう。でも歓迎会の僕と春秋先輩の様子を見たら、そんな流暢なことを言っていられないと思ったらしい。そうしたら偶然にも僕たちが今日、公休日で、しかも検査のために医務室へ来ることになった。隊員の予定表を確認したら、春秋先輩も公休日だった。しかも公休日の春秋先輩の予定といったら自主トレだ。連絡をしたら案の定、訓練施設でヨガの最中だった。歓迎会以降、一言も話していないだろう二人を呼び出し、こんな重い話をするのはどうかという思いもあったらしいのだけど、別々に話しても受けるインパクトは同じだろうし、須虞那先生もこの話を二度もするのは疲れるからって笑っていたけど、ともかく僕は春秋先輩と一緒にこの話を聞いたんだ」


「うわあ、そうだったのか……。それで、どうだったんだ、佐保先輩の様子は?」


「部屋に入ったとき、春秋先輩は俺の目を見ることもなく、そっぽを向いていた。敵意をあからさまに向けるとか、この前みたいに掴みかかることはなかった。おそらく、前回、天津頭領からも何か言われたのだろうね。とりあえず距離を置こうとしている感じだった」


「須虞那先生の話を聞いている時は?」


「とても驚いていたよ。俺もそうだったけど、驚きすぎると言葉がでないんだよね。春秋竜美が死んだのではなく、退行して赤ん坊になった聞いた時は涙をこぼしていたよ」


「そうか……」


「でも現在どこにいるのか、そもそも生きているのか死んでいるのか、それもわからない状況に、相当怒りを感じていたみたいだ。握りこぶしが怒りで震えているのが見えたからね」


「じゃあ佐保先輩も熱田大臣に会いに行くんだね」


「うん」


「それで須虞那先生の話を聞き終えた後、狭霧に対する態度は変わったのか?」


「春秋先輩は決して悪い人じゃない。とても真っすぐで真面目な人だ。須虞那先生の話を聞いた後、春秋先輩は『ヒドイことを言ってしまい、ごめんなさい』って謝罪してくれた」


「良かったな」


「陽菜がせっかく動いてくれているから、申し訳ないとは思いつつ」


「陽菜はこのことを聞いたら喜んでくれるよ」


「僕もそう思う」


「……あ、夜見先輩のことを聞いた佐保先輩の反応は?」


「ああ、それが、春秋竜美と四尊先輩は許婚という関係だったけど、蓮から聞いた感じとは少し違う感じだった」


「?」

この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

許婚同士の二人の関係に何かありそうです。

狭霧は何を語るのか? 引き続きお楽しみください。

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