真相に近づくために
第三次討伐作戦が成功したことで、黒影第一部隊は今度こそすべき任務がなくなったはずだった。
金剛お台場山への窃盗団の襲撃はなくなり、黄泉の国の入口も封印され、黄泉の国の軍勢が現れることもなくなった。
だが、どれもすべて現時点では、というものだった。
窃盗団は黄泉の国の軍勢と遭遇したことで、金剛お台場山を諦めた。もし黄泉の国の軍勢が討伐されたという情報をなんらかの手段で手に入れれば、またやってくるかもしれなかった。
黄泉の国の入口も、坑道を作る過程で開けてしまった、ということは今後も金山の採掘を行う限り、起こりうる事態だった。
さらに、熱田尊と小笠原久光が懸念したのは、天照大御神の名を語る謎の女性が黄泉の国の入口に現れたことだった。
一連の異変を分析した僧侶や陰陽師は、黄泉の国に天照大御神が幽閉されているのでは、という突拍子もない仮説を考えた。そしてまるでこの説を逆手にとるように、天照大御神の名を語る謎の女性が現れた。
須虞那先生の、切り落とされた腕からは黒いドロドロのタールのようなものがしたたり落ちた、という証言。
沫那美先輩が最後に窃盗団の巣を離れる前に黄泉の国の入口を確認したが、朝日を浴び、動きをとめた黄泉の国の軍勢は消えており、もちろん須虞那先生が見た天照大御神の名を語る謎の女性も消えていたという報告。
このことから謎の女性は黄泉の国の住人と考えられた。
だが、まるでこちらの立てた仮説を知っているようで、熱田尊と小笠原久光は不気味さを感じたし、まだすべて終わっていないのではという気持ちが残っていた。
さらにいえば熱田尊と小笠原久光は天野頭領、春秋竜美、鹿島建御がどうなったのかを知りたいと思っていた。そのためにも今、ここから離れるわけにはいかなった。
ここに残り、真相に近づける地位を目指すことを熱田尊は心に誓った。そしてその考えを須虞那先生に打ち明け、黒影頭領を受けるよう、説得した。
だが結局、黒影頭領になっても上層部の秘匿体制の壁は厚く、須虞那先生は別の角度からアプローチすることにした。
須虞那先生は、この時代に一般的な、一貫教育学校という五歳から十五歳まで一貫して義務教育を受ける学校を卒業したのちに就職、ではなく、特別職養成所へ入学していた。
人口減少と少子化、および即戦力を求める社会情勢にあわせ、多くの職業が実地訓練で新しい働き手を育成していたが、いきなり実地では難しい職業もあった。医療関係もそれで、須虞那先生は特別養成所で学び、医師免許を取得していた。
そして頭領を一年務めたのち、医務室勤務へと異動を果たしたのである。
もし再び黄泉の国の軍勢が現れ、生命力を奪われ、退行する者が出た場合、まっさきに運び込まれるのは医務室である。ここにいれば上層部の闇に迫れると。
これが須虞那先生が狭霧に話した全てだった。
俺はこの話を聞きを終えて、驚きで言葉が出なかった。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
須虞那先生が語ったこと、皆さんはどう感じましたか。
この後、どうなるのか。引き続きお楽しみください!




