行方
須虞那先生は赤ん坊になった天野頭領と少年になった夜見先輩を連れ、上陸ポイントへ戻ることができた。
自分が助かるため、ではなく、天野頭領と夜見先輩を助けるためだけに、目の前に迫る黒い影を鎌で切り裂き、ただただひたすらに上陸ポイントを目指した。
赤ん坊と少年を連れた須虞那先生を止める隊員はいなかった。
須虞那先生は誰よりも早く、上陸ポイントへ戻った。
上陸ポイントの祭壇にいた小笠原久光に事情を話し、その場にいた隊員に赤ん坊と少年を預けると、須虞那先生は戦場へ戻ろうとした。
それを制したのは小笠原久光だった。
彼は静かに東に目を向けた。
つられて東を見た須虞那先生は、水平線が明るくなっていることに気が付いた。
いつの間にか夜になり、そして夜明けを迎えようとしていた。
それだけの時間、激闘が続いていたのだ。
その瞬間、須虞那先生の体から力が抜け、地面に崩れ落ちてしまった。なんとか立ち上がろうとしたが、力が入らなかった。
須虞那先生は二人の隊員に支えられ、ゴムボードに乗せられた。
そして少年になった夜見先輩もボードに乗り込み、汚れを落としてもらい繭のように白い布に包まれた赤ん坊の天野頭領も、須虞那先生に預けられた。
それからほどなくして水平線に太陽が顔を出した。
そして太陽が東の空にどんどん昇り始めると、隊員が続々帰還した。
その中に場違いな子供の姿があった。隊員と手をつなぎ歩くその子供の顔に、須虞那先生は見覚えがあった。
あれは……
鹿島建御だった。
さらに別の隊員が赤ん坊を抱いて帰還した。
赤ん坊が誰であるか、その時点では分からなかった。春秋竜見であることを、須虞那先生は後に知ることになった。
隊員が続々帰還する中、なかなか戻らない隊員が一人いた。
沫那美先輩だった。
小笠原久光は沫那美先輩を探すために、防衛本部にドローンを飛ばすよう要請した。そして上陸ポイントに戻った隊員を順にゴムボードにのせると、帰還させることにした。
須虞那先生は沫那美先輩の無事を信じ、このままここで待つことを申し出たが、少年や赤ん坊を一刻も早く防衛本部に連れ帰ってほしいと説得され、窃盗団の巣を後にすることにした。
防衛本部に戻ると、それはそれは大変な騒ぎになっていた。
赤ん坊と少年は医務室に連れていかれ、事情を知る須虞那先生は上層部へ呼ばれた。
上層部への報告が終わった頃、別の隊員から沫那美先輩がどうなったのかを聞くことができた。
沫那美先輩は、夜明けと共に黄泉の国の軍勢が消えると、天野頭領の所在をその場にいた隊員に尋ねた。
実は天野頭領は、夜見先輩を庇った後、黒い影に襲われた際に、既に黒い影に触れてしまっていた。沫那美先輩が駆け付けた時には退行が始まっていた。
だが、黒い影に触れたのは一瞬だったので、それ以上生命力が奪われることはなかった。退行はわずかで済んだが、この戦場において、戦力ダウンは痛手だった。
沫那美先輩は天野頭領を守りながら戦うことになった。
一方、天野頭領の中には、まだ頭領としての自覚が残っていた。自分のことは気にせず、戦いに集中するよう、沫那美先輩に指示を出した。封印の桃の実が置かれたエリアに黒い影は近づけない。自分はここで戦いが終わるのを待つから、と。
そこで沫那美先輩は、念のためと自身が所持していた封印の桃の実を天津頭領のそばに置いた。そしてすぐさま南の方角に封印の桃の実を置こうとしている須虞那先生の元へ駆けつけたのである。
須虞那先生の血路を開いた後は、まだ残っている黄泉の国の軍勢との戦いへ戻った。
最初こそ、天野頭領のことを気にしていたが、そうもできないほど黄泉の国の軍勢の数は多かった。次第に戦いに集中した沫那美先輩が天野頭領のことを思い出したのは、朝日を浴びた時だった。
いるはずの封印の桃の実のそばに、天野頭領の姿はなかった。
沫那美先輩は隊員に上陸ポイントへ戻るよう指示を出すと、天野頭領がいないか、窃盗団の巣をくまなく探して回った。
最終的に沫那美先輩が上陸ポイントへ戻ったのは、ドローンが沫那美先輩を見つけ、事情を説明するので帰還するようにと促してからだった。その頃には上陸ポイントには小笠原久光と二人の隊員しか残っていなかったという。
沫那美先輩の安否を確認できた須虞那先生は、その足で医務室へ向かった。
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須虞那先生、無事帰還できましたね。
引き続きお楽しみください。




