突拍子もない分析
金剛お台場山の異変は、坑道で女性のような形をした白い靄が出現した時から始まったことに彼らは着目していた。この白い靄の正体が分かれば、黄泉の国の軍勢が出現した理由もわかるのではないかと考えたのだ。
黄泉の国の軍勢は、神視覚が中程度発現した者には黒い影の塊に、弱く発現している者には黒い靄に見える。
黄泉の国の対になるものは、葦原の中つ国、もしくは高天が原と考えられている。
そして葦原の中つ国は地上世界、高天が原は神々の世界だ。
それを踏まえ、神視覚が発現したものが見る世界をこう考えた。
黄泉の国の軍勢:黒い靄
葦原の中つ国:人間
高天が原:白い靄
坑道で見られた白い靄は神もしくは神の使者なのではないか、というのだ。
可能性として神よりも神の使者が高いため、神の使者が現れたと仮定した。ではなぜ、神の使者が現れたのか?
その理由として考えられたのはこの二つだった。
一、金剛お台場山、金山の採掘を進めると、黄泉の国の軍勢が現れると、警告しにきた。
二、助けを求めに来た
この理由の前提として、金剛お台場山はただの金山ではなく、黄泉の国の入口と考える必要があった。ではなぜ黄泉の国の入口が金山という形で現れたのか?
黄泉の国はそもそも地下にあると考えられている。そしてその地下は人間が到達できるような深さではなかったが、一連の災害で隆起してしまった。
もしくは一連の災害であまりにも死者が多く出たため、黄泉の国が死者を迎えるために地上へ表出したとも考えられた。
いずれにせよ、地上に表出した際、たまたま黄泉の国の上の層にあった金の層も一緒に地上へ出てきたのではないか。
または黄泉の国が簡単に地上へ出てしまわないように、神の手で金の層で覆われていたとも考えることができた。
これを踏まえると、神の使者が警告しに来たと考えることは、納得のいく解釈だった。
採掘を進めると黄泉の国とつながってしまい、そこから軍勢が現れると知らせてくれた……。
一方、助けを求めに来た、というのは少し違った見解から生まれた推測だ。
一連の災害に日本が見舞われた時、日本の最高神と考えられる天照大御神は、葦原の中つ国が崩壊することを良しと考えていたのか?
その答えはもちろん良しとは考えておらず、助けたい気持ちがあったのではないか。でもそれができない、すなわち、天照大御神は黄泉の国に囚われていた。そのため、一連の災害が起きたのではないか。
一連の災害が起きた結果、黄泉の国は地上へ表出した。
そう、黄泉の国は地底から地上へ出るために、天照大御神を黄泉の国に幽閉し、一連の災害を起こした。そして黄泉の国の軍勢を使い、葦原の中つ国を死者の国に変えようとしているのではないか。
天照大御神は黄泉の国から抜け出し、この野望を砕かなければならない。そのため、助けを求める使者を送ってきたのではないか、というのが二の説だった。
この報告を受けた熱田尊は、自身が神の力が発現しているにも関わらず、高天が原や天照大御神といった言葉が出てきたことに突拍子のなさを感じずにはいられなかった。
熱田尊は小笠原久光にすぐこの報告書を見せた。
小笠原久光は報告書に目を通し、「この報告書に真実が含まれている可能性もあるが、想像の域を出ない可能性も大きい」と答えただけだった。
想像の域を出ない可能性もあるが、真実が含まれている可能性もあるなら、と、熱田尊はこの報告書に書かれた内容を第三次討伐部隊のメンバーに共有した。
多くの隊員がこの報告書を見て驚いている様子だったが、沫那美先輩だけが冷静に質問をした。
「もし、天照大御神が助けを求めているのならば、黄泉の国の軍勢を倒し、彼女の救出までが今回の作戦に含まれるのでしょうか?」
熱田尊は同席していた小笠原久光に指南を求めた。
「黄泉の国の軍勢との戦闘は今回が初になる。精鋭な部隊であることは分かるが、無理は禁物。今回は黄泉の国の軍勢の殲滅のみに集中しては」
この考えに熱田尊は賛同し、頭領である天野も同意した。
こうして第三次討伐作戦では、黄泉の国の軍勢の殲滅に全力を尽くすことになった。
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この突拍子もない分析が、後に作戦決行時の須虞那先生の行動に影響を与えることになります。
ということで引き続きお楽しみください。




