現在の東京
飛行機の着陸は離陸よりインパクトがあった。
車輪が地面に着いた瞬間のドスンという重量感は全身に伝わった。
想像以上の揺れに驚いた。
その衝撃は、東京湾の代わりに居ずわる山のことを忘れるぐらいだった。
異様に存在感のある山について思い出したのは、飛行機が完全に停止し、タラップに出た時だ。
なにせその姿が目につくからだ。
タラップを降りるとジープが到着していて、俺たちはそれに乗って移動を始めた。
山にばかり目が行ってしまったが、初めてこの目で見る東京は、かつての面影を感じるのが難しいぐらいに変貌していた。
巨大なビル群は崩れ落ち、高速道路は倒壊。東京のシンボルだったスカイツリーも東京タワーもぐにやりと折れて倒壊しかけていた。
コンクリは野ざらしでひび割れ、その多くが雑草に覆われ、手つかずのまま放置されていた。
東京の復興のために、多くの人が派遣されたはずだが、整備されているのはごく一部、この飛行場と今走っている道路、東京湾に現れた山の周囲をぐるりと取り囲む巨大な石垣、その近くにある工場のような施設とその近くのいくつかの建物ぐらいだった。
あくまで現在見える範囲では。
「これから黒影の本陣がある旧お台場エリアに向かうわねー。このエリアは地震で液状化現象が起きて、壊滅的な状態になったのよ。でも東京湾にあの山が出現することで、土地が隆起したの。その結果、本陣を構えることができるような新たな土地が出来上がったの」
木ノ花先生は時間を確認し、話を続けた。
「到着したら寮に案内するわ。昼食までは各自の部屋に届いている荷物の片づけをしていてね。午後はオリエンテーション、夜には歓迎会。今日はそれでおしまい」
木ノ花先生はそこまで話すと、黒髪を風になびかせながら、風圧に負けない大きな声で話を続けた。
「あと、もうみんな気が付いていると思うけど、ずっと見えているあの山が、金剛お台場山よ。あれ、全体が黒い土で覆われているけど、中はほぼ金。先の地震で地底から盛り上がって出現したの。しかも今見えている姿は氷山の一角ってやつで、地中と背後の海中に裾野が長く深く広がっているのよ。まさに金塊。金の塊。でね。この山、双子になっていて、駿河湾の方にも、こっちより小さい形で頭をひょっこり出しているの。そっちの金山は、金剛駿河山って呼ばれていて、実は旧沼津に黒影の第二部隊が駐屯しているのよ」
「!?」
木ノ花先生はサラリと超機密情報を口にした。
そもそも金が見つかったと言っても、どんな形で見つかったか発表されていなかったし、こんな巨大な山で、しかも双子で、東京以外、駿河湾にも出現していたなんて、まったく知らなかった。
さらに黒影に第二部隊が存在していたことも初耳だ。
隣の陽菜も同感のようで口をポカンと開けたまま、木ノ花先生の話を聞いていた。
その姿は幼い少女のようで愛らしくもあった。
一方の狭霧は表情を変えることなく、涼やかな切れ長の目であの山を見つめていた。
一見何も聞いていない風情だったが、木ノ花先生の話はしっかり聞いていたようだった。
なぜなら、狭霧が質問したからだ。
「先生、黒影には第二部隊まであるのに、新人隊員はこの三人だけですか? それとも京都以外のエリアからも入隊者がいるのかな。もしくは第二部隊は別で採用をしている…? この規模の金山を防衛するための武器が配置されている様子がないんですよね……。そうなると人海戦術で守っているのかなと思うのですが、その割に新人隊員の数が少ないな……と」
狭霧は最後こそ冗談っぽく笑顔で聞いていたが、冷静に周囲の状況を分析した上で質問をしていた。
実は美青年というだけでなく、かなりの切れ者かもしれない。
木ノ花先生も思いがけない問いかけに一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔で応えた。
「天野くんはよく周囲の状況を見ているわね。敵を迎え撃つとなると、戦争を想像しちゃって、戦車や迎撃ミサイルがが配備されていないの?と思っちゃうのも無理ないわ。ただ、敵とはいっても金を盗み出そうとする一味だから、戦争をするわけじゃない。戦いはするけど、火力でものを言わす戦い方ではないの。だから武器は配備されていないのよ」
そこで一旦口元に当たった髪を払うと木ノ花先生は続けた。
「では人海戦術が必要かというと、それは確かに必要よね。ただ、黒影に必要なのは数ではなくて質なの。ここにいる三人は入隊試験もなくここまで来られたから、誰でも入隊できると考えているかもしれないけど、それは間違っている。あなた達が黒影入隊を希望して、願書を提出してから、私たちは調査をして精査してあなた達三人に決めたのよ。ちなみに願書は日本全国から聞いたら驚く数が届いていたのよ。具体的な数字を教えることはできないけど」
……! そうだったのか。実はそんなに難易度高かったのか⁉
狭霧はまあ即決採用だとして、俺はやっぱり類まれな健康体と武術の心得ありで採用されたのかな……。
いや、俺みたいな奴、それこそゴロゴロいそうだけど……。
まあ、ラッキーだったんだと思うしかないな。
「少数精鋭ということですね。機内で見せていただいた黒影隊員の写真、写っていたのは四十六人でした。この四十六人で金剛お台場山――金山を守っている……のですか?」
狭霧の質問に木ノ花先生は両手を挙げてみせた。
それはまるで「お手上げです」と示しているようだった。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
初めての投稿でガチガチに緊張して作業しました。
不慣れなため至らないところがあるかもしれません。
どうか温かく見守っていただけると幸いです。
引き続きよろしくお願いします。