覚悟
「須虞那先生は頭領も務めていたって、木ノ花先生は言っていたよね。須虞那先生が頭領になったのは、父が亡くなったからなんだ。父が亡くなり、本来は頭領代理だった沫那美先輩が頭領を継ぐはずだったんだけど、本人が辞退したそうだ。『自分には天野頭領のような才覚も指揮も判断もできません』って。それでその当時、次期頭領代理と言われていた須虞那先生が頭領になった。でも須虞那先生も、自分は沫那美先輩の足元にも及ばないし、頭領の器ではない。何よりも作戦の直後で自分は動揺しているし、心の整理もつかないから頭領になるのは無理だと、同じく辞退を申し出たそうだ。とはいっても、頭領不在を長引かせてはいけない、須虞那先生以外でもう頭領になれる人材はいないなど様々な理由で説得されて、受けることになったそうだ」
「そんな経緯があったのか……。あの並外れた身体能力を持つ沫那美先輩がそんな風に自分を卑下するなんて……。いや、それってつまり、狭霧のお父さんが頭領としてよっぽどすごかった、ということなんじゃないか」
そこで俺はハッとして狭霧を見た。
「……作戦直後って、もしかして須虞那先生は第三次掃討作戦に参加していたのか⁉」
狭霧は頷いた。
「須虞那先生だけじゃない。沫那美先輩も参加していた」
「……! そうか。沫那美先輩は頭領代理……。俺、てっきり、作戦参加者はみんなもう黒影を辞めたと思っていた。まさかこんな身近に作戦参加者がいたとは……」
そこで俺はとんでもないことに気づいた。
「狭霧、第三次掃討作戦に参加していた二人が、天野頭領のような才覚はないと、頭領になることを辞退しようとしたんだよな?」
狭霧は静かに頷いた。
「佐保先輩は死亡者を出すような作戦を指揮したと、天野頭領のことを責めていた。でもそれって違うんじゃないのか? 死者が出た作戦から帰還してなお、頭領の能力を認めていたということは、その作戦で死者が出たのは仕方なかったと、須虞那先生も沫那美先輩も感じたんじゃないのか。もしこの作戦を須虞那先生や沫那美先輩が指揮していたら、死者三名では済まなかったんじゃないのか? この人数の犠牲で済んだのは天野頭領だったから、と須虞那先生や沫那美先輩は思っているんじゃないか」
俺は狭霧の目をじっと見た。狭霧も俺の目を見返し、頷いた。
「須虞那先生はまさにそう言っていたよ。全滅するかと思ったと。生きて戻ることができるとは思わなかったと。天野頭領と春秋竜美、そしてもう一人の隊員の犠牲がなかったら、誰も生還できなかったと」
全滅⁉
それほど過酷な作戦だったのか?
「窃盗団は金が目的なんだろう? そんな部隊を全滅に追い込むほど攻撃するなんて……」
俺の言葉に狭霧は厳しい表情で告げた。
「黒影に関する情報はすべて極秘扱いだけど、その中でも第三次掃討作戦は特に秘匿されている。死者も出ているから。だから本来その詳細を漏らすことは許されることではない。でも須虞那先生は歓迎会での僕と春秋先輩の姿を見て、何があったのか、僕と春秋先輩には話すべきだと決め、僕に話してくれたんだ。だからここから先の話を聞くなら、蓮にも覚悟を決めてほしい。須虞那先生は蓮と陽菜になら、話してもいいと言ってくれた。でも聞くからには覚悟を決めてほしいと。これから聞くことを知っているとバレたら命に関わる。それでも聞きたいかと」
俺は狭霧の真剣な目を見て、強く頷いた。
「俺にはその覚悟がある。だから聞かせてほしい」
「分かった」
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