狭霧の部屋
俺は夜見先輩の件を早く狭霧に話したかった。
端末を取り出し、連絡が来てないか確認したが、メッセージも着信もなかった。
俺は一旦部屋に戻り、ベッドに横たわっていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
結構眠ってしまった気がする。
慌てて端末を取り出して確認したが、狭霧から連絡はまだなかった。
医務室へ行ってみるか。
俺が部屋を出た瞬間、丁度医務室から狭霧が戻ってきたところだった。
「丁度良かった、狭霧」
俺が声をかけると、狭霧は心なしか元気がなかった。
「……大丈夫か?」
「あ、うん。平気だよ。お腹すいちゃって」
「あ、もうすぐ十二時か。でもきっと食堂は混むよな。購買で何か買って、部屋で食べるか?」
俺の提案に狭霧は頷いた。
「じゃあ、俺、適当に購買で買ってくるよ。狭霧はそのマントがあるし、部屋で待っていてくれ」
「分かった。ありがとう、蓮」
俺は狭霧と別れ、購買へ向かった。
◇
購買には初めてきたが、想像以上に大きく、食料品だけでなく、衣類や履物、スポーツ用品、化粧品など幅広い商品を扱っていた。
これは期待できると食料品コーナーに行くと、商品は沢山あるが、そのほとんどが代替フードか3Dプリンターフードだった。
でも食堂の食事ばかりだったから、逆にこーゆうのが懐かしくていいかもしれないな。
俺はチキンサンドや焼きそばパンなどを手にとると、レジへ向かった。
混雑する前に会計をすることができたが、廊下は購買へ向かう人が多く、俺は逆流する形になった。人を避けながら寮へ戻ると、狭霧の部屋をノックした。
「お待たせ」
「混んでいた?」
「こっちへ戻ってくるときは。購買は食堂と違って、代替フードや3Dプリンターフードばかりだったよ」
そんなことを言いながら俺は狭霧の部屋に入った。
そういえば狭霧の部屋に入るのは初めてだな。
そんなことを思いながら目をやると、ベッドの壁にはかなり大きいサイズの空と海の映像がスクリーンモニターに表示されていた。
「すごい、綺麗な空と海だ……」
「父が好きな景色で、ハワイの海と空なんだ。昔、祖父母が旅行した時に撮った写真を父が見つけて、部屋に飾っていたんだって。僕も気に入って自分の部屋に飾っていたんだ。見ていると気持ちが落ち着くから、データ化して投影しているんだ」
「ハワイか……。昔の日本人はハワイ好きだったらしいな」
「うん。異常気象と火山の噴火でほとんどの島が消失してしまったし、今の時代、太平洋の島に行くなんて、宇宙に行くぐらい難しくなっちゃったからね。あ、この写真、デジタルアートとして販売しないかって結構声がかかるんだけど、父が大切にしていた景色だから、こうやって僕が所持し続けているんだ」
「うん、それだけの価値はある美しさだよ」
「あ、蓮は机の方に座って。僕はベッドに座るよ」
「オッケー」
俺は購買で買ったものを狭霧に見せ、狭霧が焼きそばパンとドーナツ、レモンソーダをとると、残りが入った袋を持ち、机の椅子に腰を下ろした。
今日もまたいろいろなことがあったが、何から話せばいいのか。
休憩所の怪奇現象のことか、倉庫での夜見先輩のことか。
俺がそんなことを思案していると狭霧がポツリと話を始めた。
「……須虞那先生が、父の件を話してくれたんだ」
「えっ……!」
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
いよいよ次回、物語の中核を成すある出来事が語られます。
お楽しみに!




