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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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狭霧の部屋

俺は夜見先輩の件を早く狭霧に話したかった。


端末を取り出し、連絡が来てないか確認したが、メッセージも着信もなかった。


俺は一旦部屋に戻り、ベッドに横たわっていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。


結構眠ってしまった気がする。


慌てて端末を取り出して確認したが、狭霧から連絡はまだなかった。


医務室へ行ってみるか。


俺が部屋を出た瞬間、丁度医務室から狭霧が戻ってきたところだった。


「丁度良かった、狭霧」


俺が声をかけると、狭霧は心なしか元気がなかった。


「……大丈夫か?」


「あ、うん。平気だよ。お腹すいちゃって」


「あ、もうすぐ十二時か。でもきっと食堂は混むよな。購買で何か買って、部屋で食べるか?」


俺の提案に狭霧は頷いた。


「じゃあ、俺、適当に購買で買ってくるよ。狭霧はそのマントがあるし、部屋で待っていてくれ」


「分かった。ありがとう、蓮」


俺は狭霧と別れ、購買へ向かった。



購買には初めてきたが、想像以上に大きく、食料品だけでなく、衣類や履物、スポーツ用品、化粧品など幅広い商品を扱っていた。


これは期待できると食料品コーナーに行くと、商品は沢山あるが、そのほとんどが代替フードか3Dプリンターフードだった。


でも食堂の食事ばかりだったから、逆にこーゆうのが懐かしくていいかもしれないな。


俺はチキンサンドや焼きそばパンなどを手にとると、レジへ向かった。


混雑する前に会計をすることができたが、廊下は購買へ向かう人が多く、俺は逆流する形になった。人を避けながら寮へ戻ると、狭霧の部屋をノックした。


「お待たせ」


「混んでいた?」


「こっちへ戻ってくるときは。購買は食堂と違って、代替フードや3Dプリンターフードばかりだったよ」


そんなことを言いながら俺は狭霧の部屋に入った。


そういえば狭霧の部屋に入るのは初めてだな。


そんなことを思いながら目をやると、ベッドの壁にはかなり大きいサイズの空と海の映像がスクリーンモニターに表示されていた。


「すごい、綺麗な空と海だ……」


「父が好きな景色で、ハワイの海と空なんだ。昔、祖父母が旅行した時に撮った写真を父が見つけて、部屋に飾っていたんだって。僕も気に入って自分の部屋に飾っていたんだ。見ていると気持ちが落ち着くから、データ化して投影しているんだ」


「ハワイか……。昔の日本人はハワイ好きだったらしいな」


「うん。異常気象と火山の噴火でほとんどの島が消失してしまったし、今の時代、太平洋の島に行くなんて、宇宙に行くぐらい難しくなっちゃったからね。あ、この写真、デジタルアートとして販売しないかって結構声がかかるんだけど、父が大切にしていた景色だから、こうやって僕が所持し続けているんだ」


「うん、それだけの価値はある美しさだよ」


「あ、蓮は机の方に座って。僕はベッドに座るよ」


「オッケー」


俺は購買で買ったものを狭霧に見せ、狭霧が焼きそばパンとドーナツ、レモンソーダをとると、残りが入った袋を持ち、机の椅子に腰を下ろした。


今日もまたいろいろなことがあったが、何から話せばいいのか。


休憩所の怪奇現象のことか、倉庫での夜見先輩のことか。


俺がそんなことを思案していると狭霧がポツリと話を始めた。


「……須虞那先生が、父の件を話してくれたんだ」


「えっ……!」

この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ次回、物語の中核を成すある出来事が語られます。

お楽しみに!

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