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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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ひまり先輩

町へ行く手段はいくつかあった。


徒歩(四十五分ぐらい)、電動自転車を借りる(倉庫にある)、巡回バス(一時間に一本)、防衛本部から町へ向かう車に便乗させてもらう、教務室で頼んで車を出してもらう、車を借りる、などだ。


「行動の自由度を考えると、電動自転車だな」


俺たちが倉庫へ行くと、ひまり先輩がいた。


今日のひまり先輩は魔女っ娘スタイルではなく、着物に袴姿だ。


「おはようございます、ひまり先輩」


「おはよう、蓮くん」


「おはようございます、ひまり先輩。僕、新入隊員で蓮と同期の天野狭霧です」


「おはよう、狭霧くん」


「ひまり先輩も町へ行かれるんですか?」


ひまり先輩は端末をかざし、電動自転車のロックをはずしている最中だった。


「はい。町の図書館に行きます」


俺の質問に答えながら、ひまり先輩は電動自転車のサドルを調整した。


「そうなんですね。こっちの図書室は利用しないのですか?」


俺が尋ねるとひまり先輩はコクリと頷いた。


「こちらの図書室は元々蔵書数が少ないのと、すでに読んだことがある本が多く、すべて読み終わりました。毎月の新刊も今月分は読み終わりました」


この言葉に狭霧が驚きの表情になった。


「ひまり先輩、確かにここの図書室は蔵書数は少ないですが、古書も多いですよね? それも読破されたのですか?」


「はい」


狭霧は「すごい」と、ひまり先輩を尊敬の眼差しで眺めた。


するとひまり先輩が珍しく自分から発言した。


「『織田信長黒印状』や『雲烟林』は興味深く読むことができました」


「『織田信長黒印状』……天下布武の印が刻まれた書状ですよね。『雲烟林』! 先日図書室に行ったときに、ざっとですが目を通しました。それぞれの武将の筆跡を見られるのはとても貴重ですよね。何より戦国を代表する武将の書状がこの数でまとまっているのは珍しいですし、僕も大変興味深いと思いました」


「ええ、その点、私も同感です」


予想はしていたが、膨大な読書量と知識を持つひまり先輩は、狭霧にはたまらない話相手だった。結果、俺たちは三人で町まで向かうことになった。


防衛本部から町までは一本道だった。車の往来は適度にあり、巡回バスともすれ違った。


「休憩の必要はないかもしれませんが、今後使うかもしれないので、見ておきますか?」


ひまり先輩の提案で、ちょうど中間地点にある、休憩所に立ち寄った。


そこにはトイレ、電気自動車用のEV充電器、3Dフードプリンターの自動販売機、緊急電話が設置されており、休憩スペースにはテーブルと椅子が置かれていた。


休憩スペースのスクリーンモニターには今日の天気や金の相場情報、町で行われているイベント情報などが流れていた。


「これは無料です」


ひまり先輩がウォーターサーバーから水を持ってきてくれた。俺たちは椅子に座り、水を飲むことにした。


椅子に座ると、ひまり先輩は端末を操作しはじめたので、俺は狭霧に話しかけた。


「町に着いたらどこに行く?」


「そうだな……。町の情報はあまりチェックできていなんだけど、公共のプラネタリウムがあるみたいなんだ、無料の」


「へえー、プラネタリウムか。最後に行ったのはいつだったかな……。久しぶりでいいかも」


「プラネタリウムは良い選択ですね。今上映されているプログラムは……」


そこでひまり先輩の動きが止まった。


「?」


何かを探っているようだったが


「速い。テーブルの上に乗ってください」


「え⁉」


「急いで」


俺と狭霧は慌ててテーブルに乗った。


ひまり先輩もテーブルに乗ると


「到達予想時間三秒、二、一、来ます」


「????」


ゾワッと、全身の鳥肌が立って、動けなくなった。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ次回、ひまり先輩の独特の戦闘スタイルがお披露目です。

お楽しみに!

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