三つの理由
「えっ、どーゆうこと⁉」
陽菜が目を丸くした。
「帰りのバンの中のだん先輩、しどろもどろだったじゃないか。あれはどう見ても何か知っていること、分かっていることがあるけど、僕たちに話せないという感じだった」
「歯切れの悪さは俺も感じた。でも何を隠しているんだろう……?」
「それがどうも幽霊や妖怪に関わることのような気がして、正直困惑しているよ」
「えええ、やっぱりそっち系」
陽菜が青ざめた。
「正直、僕は今回の怪奇現象みたいなものも、人為的に作られたものか、僕の心が生み出した錯覚じゃないかと今も思っている。でもその一方で、この怪奇現象を、だん先輩は……いやだん先輩だけじゃない。黒影という組織が信じているんじゃないかという気がしてならない。そして僕らは黒影の一員なのに、その事実を伏せられている」
「それはさすがに……。黒影は窃盗団を制圧するための部隊だろう。そんなオカルト集団じゃないだろう」
リアリストな狭霧とは思えない突拍子のない考えに俺はビックリしていた。
「陽菜は狭霧の案、ありだと思う」
俺は驚いて陽菜を見た。
「陽菜の直観なんだけどね。だん先輩は陽菜に、自分の身に起きたことを覚えているか聞いたでしょう。陽菜が答えた後、だん先輩は陽菜たちに『まだ訓練受けてないよね』って驚いていた。それがずっと気になっていたの。でも今、陽菜たちに隠そうしていることがある、というのを聞いた時、閃いたの」
狭霧は陽菜が何を言おうとしているのか気になるようで、姿勢が前のめりになっていた。
「だん先輩が困惑した理由は三つあると思うの。一つ目は距離的に聞こえないはずのだん先輩の歌声が狭霧には聞こえていたということ。二つ目は蓮が廃墟で黒い霞が見えたということ。三つ目は狭霧には黒い靄ではなく黒い人影に見えて、しかもだん先輩の動きにあわせてその人影が消えているのが見えたということ。そのうえで、『まだ訓練を受けてないんだよね』って聞いたということは、訓練を受けたら、聞こえないはずの歌声が聞こえたり、黒い霞とか黒い人影が見えるっていうことなんじゃないのかな。それってつまり、黒い霞や黒い人影を幽霊や妖怪というならば、黒影はそういった怪奇現象の存在を信じている。ってことじゃない? そして訓練を受けていない陽菜たちに怪奇現象の話はまだできない、隠しているというより、今はまだ話せない、みたいな」
「陽菜、君は最高だよ。まさにその通りだと思う」
狭霧はかなり興奮しているようで声が上ずっていた。そしてこう続けた。
「じっちゃまが『すでにハツゲンが始まっているとは』と言っていたことの謎もこれで解けたよ。訓練を受けると、怪奇現象を認識できるようになる、そういう力、能力の『発現』ということだったんだ!」
「陽菜の直観、当たり? 当たりかぁ。どうしょう、陽菜、幽霊とか妖怪、別に見られるようになりたくないんだけど‼ その訓練、受けないといけないのかなぁ。そもそもそんな能力なんで必要なの~」
陽菜の名探偵ぶりは終わり、またも幽霊怖いモードに戻ってしまった。
「狭霧、さっきは否定してすまない」
「いや、僕自身、半信半疑で、蓮を説得できるだけの確信を持てていなかった。陽菜の直観のおかげだよ」
「いずれにせよ、すべては訓練で明らかになる、ということか」
そう。俺たちの訓練は明日からスタートだった。
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次回更新のタイトルは「訓練開始」です。
怪奇現象を認識できるようになる訓練が始まるのでしょうか……?
お楽しみに!




