既視感
「えええ、よ、妖怪⁉」
陽菜が目を丸くした。
「咲ちゃんは妖怪とか幽霊とか詳しいんのですか? 見えるのですか?」
狭霧が身を乗り出した。
「そんなに詳しくないですけど、妖怪が出てくるゲームで昔遊んでいまして。手の妖怪といえば、手に目がついている『手の目』か『小袖の手』かなと思いました。あ、もちろん幽霊もお化けも妖怪も見たことないですが」
「見たことはなくても、妖怪の仕業と考えるのですね」
狭霧の言葉に咲ちゃんはちょっと戸惑った感じだった。
「そう、ですね。そういうこともあるのかなと」
「その小袖の妖怪ってどんな妖怪なんですか?」
俺が尋ねると咲ちゃんは困り顔になった。
「ゲーム上の設定は詳しいんですが、本来の『小袖の手』という妖怪についてはあまりわからないですね……。女性の小袖から伸びる手の妖怪、ぐらいしか……。あ、その小袖の持ち主は亡くなっていて、その女性の手みたいですが。お役に立てずすみません」
「いえいえ、ありがとうございます。女性の妖怪だから陽菜が狙われたのかもな」
俺がそう言って陽菜を見ると、陽菜は魂が抜けたような顔でシートにもたれていた。
……そういえば陽菜、幽霊とか駄目って言っていたよな。それなのに自分が襲われそうになっていたと知ったのだから……。そっとしておこう。
「その小袖の妖怪だったとして、だん先輩は何をしたのですか?」
狭霧に突然振られただん先輩は面食らった様子だった。
「うん、僕? 僕はただ、なにかよからぬものが陽菜ちゃんに迫る気配を感じて、とにかく助けたい一心で陽菜ちゃんのもとに駆け付けた感じかな」
「まぶしくて暖かい光みたいなものは感じましたか?」
「うん。感じたよ」
「陽菜も感じていて、蓮も感じたよね?」
俺は頷いた。
「あれは何だったのかな……」
「まあもし、妖怪みたいな超常現象が起きていたなら、それ以外の何かが起きていたとしてもおかしくはないよね」
だん先輩はそう言って続けた。
「狭霧くんはその小袖の手がはっきり見えたようだけど、蓮くんも見えたの?」
「あ、はい。見えました」
そこで俺はあの感覚を思い出していた。
黒く、暗い、深い、闇……。
!
俺はこの闇を前にも感じたことがある。
そこで俺の脳裏に夜見先輩の姿が浮かんだ。
まさか。夜見先輩はどこか不気味なところはあるけれど、黒影の隊員だ。それに気絶していた陽菜を介抱してくれた。
夜見先輩のまとう雰囲気だけで、マイナスのイメージで見てしまうのはよくない。
俺は頭をぶるぶるとふって邪念を追い払おうとした。
「蓮くん、大丈夫?」
だん先輩が心配そうに尋ねた。
「あ、はい。なんでもないです。あの、その小袖の手が陽菜を襲おうとした時、俺、既視感を覚えたんです」
俺の言葉にだん先輩と狭霧が反応した。
「夢でみたとか?」と狭霧。
「ここ以外の場所で小袖の手が人を襲う現場を見たとか?」とだん先輩。
「夢で見たことがあったのか、子供の頃とかに見たのか……」
「……既視感は、実際に見たことはない情景を見たことがあると感じることだから、見たことあるように感じただけかもしれないね」
だん先輩の言葉に俺は「そうなんですか?」と聞き返してしまった。
「うん。僕もたまにあるし、そういう経験ある人は結構いるんじゃないかな。頻繁に発生すると記憶の再認障害の可能性も出てくるけど……」
「お話中、すみません。そろそろ到着します」
咲ちゃんが遠慮がちに声をかけた。
「ありがとう、咲ちゃん」
バンが寮の入口に着くと、そこには天津天領と木ノ花先生がいた。
「あちゃ~」
だん先輩の悲痛な声が車内に響いた。
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