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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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既視感

「えええ、よ、妖怪⁉」


陽菜が目を丸くした。


「咲ちゃんは妖怪とか幽霊とか詳しいんのですか? 見えるのですか?」


狭霧が身を乗り出した。


「そんなに詳しくないですけど、妖怪が出てくるゲームで昔遊んでいまして。手の妖怪といえば、手に目がついている『手の目』か『小袖の手』かなと思いました。あ、もちろん幽霊もお化けも妖怪も見たことないですが」


「見たことはなくても、妖怪の仕業と考えるのですね」


狭霧の言葉に咲ちゃんはちょっと戸惑った感じだった。


「そう、ですね。そういうこともあるのかなと」


「その小袖の妖怪ってどんな妖怪なんですか?」


俺が尋ねると咲ちゃんは困り顔になった。


「ゲーム上の設定は詳しいんですが、本来の『小袖の手』という妖怪についてはあまりわからないですね……。女性の小袖から伸びる手の妖怪、ぐらいしか……。あ、その小袖の持ち主は亡くなっていて、その女性の手みたいですが。お役に立てずすみません」


「いえいえ、ありがとうございます。女性の妖怪だから陽菜が狙われたのかもな」


俺がそう言って陽菜を見ると、陽菜は魂が抜けたような顔でシートにもたれていた。


……そういえば陽菜、幽霊とか駄目って言っていたよな。それなのに自分が襲われそうになっていたと知ったのだから……。そっとしておこう。


「その小袖の妖怪だったとして、だん先輩は何をしたのですか?」


狭霧に突然振られただん先輩は面食らった様子だった。


「うん、僕? 僕はただ、なにかよからぬものが陽菜ちゃんに迫る気配を感じて、とにかく助けたい一心で陽菜ちゃんのもとに駆け付けた感じかな」


「まぶしくて暖かい光みたいなものは感じましたか?」


「うん。感じたよ」


「陽菜も感じていて、蓮も感じたよね?」


俺は頷いた。


「あれは何だったのかな……」


「まあもし、妖怪みたいな超常現象が起きていたなら、それ以外の何かが起きていたとしてもおかしくはないよね」


だん先輩はそう言って続けた。


「狭霧くんはその小袖の手がはっきり見えたようだけど、蓮くんも見えたの?」


「あ、はい。見えました」


そこで俺はあの感覚を思い出していた。


黒く、暗い、深い、闇……。



俺はこの闇を前にも感じたことがある。


そこで俺の脳裏に夜見先輩の姿が浮かんだ。


まさか。夜見先輩はどこか不気味なところはあるけれど、黒影の隊員だ。それに気絶していた陽菜を介抱してくれた。


夜見先輩のまとう雰囲気だけで、マイナスのイメージで見てしまうのはよくない。


俺は頭をぶるぶるとふって邪念を追い払おうとした。


「蓮くん、大丈夫?」


だん先輩が心配そうに尋ねた。


「あ、はい。なんでもないです。あの、その小袖の手が陽菜を襲おうとした時、俺、既視感を覚えたんです」


俺の言葉にだん先輩と狭霧が反応した。


「夢でみたとか?」と狭霧。


「ここ以外の場所で小袖の手が人を襲う現場を見たとか?」とだん先輩。


「夢で見たことがあったのか、子供の頃とかに見たのか……」


「……既視感は、実際に見たことはない情景を見たことがあると感じることだから、見たことあるように感じただけかもしれないね」


だん先輩の言葉に俺は「そうなんですか?」と聞き返してしまった。


「うん。僕もたまにあるし、そういう経験ある人は結構いるんじゃないかな。頻繁に発生すると記憶の再認障害の可能性も出てくるけど……」


「お話中、すみません。そろそろ到着します」


咲ちゃんが遠慮がちに声をかけた。


「ありがとう、咲ちゃん」


バンが寮の入口に着くと、そこには天津天領と木ノ花先生がいた。


「あちゃ~」


だん先輩の悲痛な声が車内に響いた。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

地道に更新を続けています。引き続きよろしくお願いします。


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