誰の仕業?
俺たちは寮へ戻ることにしたが、夜見先輩は薬草探しを続けるという。
「では皆さん、ご機嫌よう」
夜見先輩はそう言うと、一人でふらふらと廃墟の森へ歩いて行ってしまった。
俺たちは来た道を戻り、咲ちゃんの待つ車のところへようやくたどり着いた。
すると咲ちゃんが目を大きく見開き、今にも泣きそうな顔になり、だん先輩に抗議した。
「だんさん、何かあったら連絡をくださる約束じゃないですか!」
「そうだよね、そうだよね、ごめんね、咲ちゃん」
「なかなか戻ってこないし、防衛本部に連絡するところでした」
その言葉にだん先輩は青ざめた。
「え、連絡しちゃった?」
「まだしていませんけど」
「ありがとう~。恩に着る~。本部にはバレなくても天津頭領は気づいているだろうな。帰ったら怒られる~」
だん先輩は頭を抱えた。
「それは自業自得です。それより皆さん、平気なんですよね? お怪我とか、ないですよね?」
咲ちゃんが俺たちを心配そうに見た。
「俺たちは大丈夫です」
「陽菜さんも狭霧さんも平気ですか?」
「大丈夫です」「大丈夫ですよ~」
狭霧と陽菜が答えると、咲ちゃんはようやく笑顔になった。
「では戻りましょう。戻ったら美味しいご飯を食べて、ドジなだんさんのことは許してあげてくださいね」
「はい」
俺たちは元気よく返事をしてバンに乗り込んだ。
バンが発進すると、陽菜がおもむろに口を開いた。
「だん先輩、廃墟で一体何があったのですか?」
てっきり寮に戻ってから、俺と蓮を質問攻めにするかと思っていたのに、陽菜はまさかのだん先輩に直球で疑問を投げつけた。
もしかしてじっちゃまの件をだん先輩に相談したら、親身に話をしてくれたから、直接聞いてみることにしたのかな。
いずれにせよ、正直俺は、おそらく狭霧も、あの場で何が起きたのかはっきりわかっていないので、ここでだん先輩から話を聞けるのは好都合だった。
「うーん、と、陽菜ちゃんは自分の身に何が起きたか覚えている?」
「いえ、覚えていないです。だん先輩がパルクールを始めて、三人でその様子を見ていました。狭霧はだん先輩が透き通った声で歌っている、と言うけれど、私と蓮には聞こえなくて。さらに蓮は廃墟に黒い霞が沢山見えるって言って、狭霧は自分には黒い人影に見えるって言いだして……。しかも、だん先輩がパルクールをしながら通過した場所からその黒い人影は消えているって……」
陽菜はそこで言葉を切り、「陽菜はそーゆう幽霊の話、苦手なんです‼」と泣きそうな顔で主張した後、咳払いをして落ち着くと話を再開した。
「二人の怖い話はそれ以上聞かないようにしていたら、突然だん先輩の叫び声がしました。そして蓮と狭霧が走り出して、何が起きているのかと立ち上がったら、今度はだん先輩に名前を呼ばれて……。一瞬、とても強い臭気を感じましたが、すぐになにかとてもまぶしくてあたたかい光みたいなものに包まれた気がして。気がついたら見知らぬ男性……夜見先輩に介抱されていました」
陽菜の話を聞き終えただん先輩は驚いたという顔をしていた。
「えっと、三人ともまだ訓練を受けてないよね? そうだよね。昨日入隊したばかりだもんね」
だん先輩はしばらく考え込んだ後、
「うーん、確かに僕は歌っていた。けれど君たち三人とは相当距離があった。だからその声が狭霧くんに聞こえていたっていうのは驚きだね」
まずそう答えた。
「そして黒い何かは……うーん、幽霊なのかな?」
「だん先輩は見えていたんですか?」
陽菜の問いに今度は即答した。
「僕は幽霊は見えない。でも気配はやっぱり感じるよね」
「だん先輩が突然何かに引っ張られたのはやはり幽霊の仕業なんですかね?」
俺が聞くとだん先輩は首を傾げた。
「どうかな。僕も突然のことだったしね……」
「過去にも廃墟であんな風に何かに引っ張られたことあるんですか?」
今度は狭霧が尋ねた。
「それはないよ。あの廃墟はそーゆう悪い気がある場所じゃない」
「僕は陽菜が地面から伸びた大きな手のようなものに襲われるように見えたのですが、あれも幽霊なのかな……」
狭霧が独り言のようにつぶやいた。
「ええええ、何それ⁉ 陽菜、そんなお化けに襲われそうになっていたの⁉」
「もしかしたらそれは『小袖の手』っていう妖怪じゃないですか。『今昔百鬼拾遺』などで紹介されている手の妖怪」
そう発言したのは咲ちゃんだった。
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