黒影を目指す理由
「この人、近くの家のおじさんに似ている~」
陽菜の明るい笑い声が聞こえてきた。
陽菜の黒影入隊の志望動機はまったく想像できなかった。
想像できないはお互い様か。
陽菜からしたら、俺の志望動機はきっと想像できないだろう。
そう、俺の場合、学校を卒業してどの職業につくか考えた時、家のポストに投函されていた黒影募集のチラシを見つけたのがきっかけだった。
給料はかなりいいし、住む場所と食事も提供される。かつ国の宝を守る英雄と見られている黒影に入隊できれば、願ったり叶ったりでしかなかった。
それに何よりも俺は健康が取り柄だった。
狭霧のような美青年でもなく、身長も体重も平均的な俺だったが、健康だけは誰にも負けない自信があった。
子供の頃はわんぱくで山の中を走り回っていたが、怪我をしたことがなければ、病気らしい病気にかかったこともなかった。
風邪の一つぐらいひいて学校を休めば、皆からお見舞いの手紙やクラスのマドンナからノートの一つも借りることができたかもしれない。
だが、そんなこともなく、健康そのもので学校を卒業してしまった。
俺がこんなにも健康な理由。
それはじいちゃんと父親が子供の頃から俺を鍛えたからだと思う。
共に武道の達人だった二人は、俺にもその道を極められるよう導いてくれた。
そうやって武道を極める中で、俺は自分が運動神経に恵まれていることに気づいた。
健康で武道の心得あり、そして運動神経にも恵まれている。
これなら黒影に入隊できる、と思った俺は、願書を取り寄せたのだ。
「ねぇ、蓮、聞いている? ほら、見て。女性の隊員も結構いるよ」
陽菜に腕を引っ張られ、俺は我に帰った。
「え、ホント!」
俺は陽菜同様、思春期の男子として正しく反応し、目を輝かせることにした。
◇
黒影の隊員の写真で盛り上がった後、飲み物が提供され、それを飲むと俺らはウトウトして眠ってしまった。
目覚めたのは着陸に向けたアナウンスの時だった。
俺は軽く伸びをして、窓から外の様子を眺めた。
これが東京⁉
隣を見ると、陽菜も俺と同感の感想のようで、目を大きく見開き、眼下に広がる現在の東京を眺めていた。
富士山が噴火し、火山灰が降り注ぐ東京にヘリや飛行機、軍用機はもちろん、ドローンさえ飛ばすのは困難だった。
さらに地震で道路はあちこちで寸断され、陸路で東京へ向かうのも不可能だった。
となると海路で東京へとなるが、北米を襲う超巨大ハリケーンとまでいかなくとも、太平洋上では頻回に台風が発生しており、貴重な食糧などの物資、そして船を無駄にするわけにはいかなかった。
その結果、一連の災害直後の東京の様子を記録した写真や映像はそもそも少なかった。
ようやくドローンを飛ばせるようになり、ヘリが飛べるようになっても、着陸できるような場所はなかった。
結局、上空から廃墟と化した東京を撮影するしか手はなかったのだ。
さらに現地調査のために政府の役人がなんとか東京に降り立ち、ゴールドギャングとの遭遇で金が発見されてからは、東京に関する情報は機密情報扱いとなった。
そう、金は東京で発見されていた。
その結果、現在の東京の様子を正確に知る人は限られていた。
一方でかつての東京の様子はネット上に映像や情報がゴロゴロ転がっており、現在の東京以上に知る人が多かった。
だから驚きはそこから来ている。
昔の東京とは大違いだからだ。
だってさ、東京湾は消えていて、そこには巨大な山があるんだぜ。
この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。
初めての投稿でガチガチに緊張して作業しました。
不慣れなため至らないところがあるかもしれません。
どうか温かく見守っていただけると幸いです。
引き続きよろしくお願いします。