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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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新しい視点

話が長くなりそうと感じたのか、だん先輩に促され、俺たちは草むらの上に車座になって座った。


「……なるほど。そんな出来事があったんだね。狭霧くんの推理通り、そのじっちゃま?は内部の人、関係者だろうね。金山統括庁は物理的な警備以外に強力なけ…あ、いや、とにかく警備が厳しいから、外部から不審者が侵入するのはまず無理だ。それは黒影であっても、だ。まあ、だから内部の年寄りが今年の黒影はどんな新人かな、と見に来たんじゃないかな。ちなみに僕らは普通に和菓子を食べてそのまま面会に向かったよ。眠くなったり、体が動かないということはなかったな」


そこでだん先輩は少し考え、こう切り出した。


「そのじっちゃまと眠気とか金縛りは、結びつけて考えなくていいんじゃないかな」


「!」


それはかなり新しい視点だった。


「君たちは金山で窃盗団の襲撃にあったと、その時点では思っていたわけだろう。それはものすごい精神的ストレスやダメージを君たちに与えていたと思う。その原因は僕らが隠し撮りしていたからで申し訳ないのだけど」


だん先輩はそこで俺達にペコリと頭を下げ「ごめんね」と言い、話を続けた。


「ともかくそんな状態で、美味しいスイーツを出されたら、一気に気が緩むだろうし、それが眠気につながってもおかしくないよね。それに疲れていると、金縛りにあうって聞いたことがある。実際に金縛りにあっていたかはわからない。けど、疲労で体は眠りたいのに、でもこれから大臣との面会で起きていなきゃいけない、っていうどっちつかずの状態が、金縛りのような身動きがとりにくい状態を生み出しちゃったんじゃないかな。で、その時にたまたまじっちゃまが現れた」


「木ノ花先生が応接室に入ってきた時、じっちゃまの姿が忽然と消えていました。この点はどう考えますか? 内部の人で関係者なら、『今年の新入隊員が気になったので、ちょっと覗きに来た』と言えば、そんな姿を隠すようなことはしないですよね」


「まあ、それは狭霧くんの言う通りだね。ただそのじっちゃまはとても小柄だったんだろう? 木ノ花先生の目に入らず、入れ替わりで廊下に出て行ってしまったのかもしれない」


「あ、陽菜、それわかるかも。人が沢山いる駅で、何か他のことに気を取られていて、前からやってきた小さな子供とぶつかりそうになったことが何度かあるもん。陽菜の身長の視界だと、四歳ぐらいの子供はちょうど死角で目につきにくいって感じ」


「なるほど」


俺と狭霧は同時に声を出していた。


「じゃあ、僕はそろそろパルクールを楽しんでもいいかな?」


「はい、ありがとうございました」


「ありがとうございます」「ありがとうございます」


僕らが口々にお礼の言葉を口にすると、だん先輩はニッコリ笑い、「じゃあ、行ってきます」と駆け出した。


「だん先輩はすごいね」


手近にあったコンクリに飛び乗るだん先輩の様子を見て、狭霧がため息をついた。


「ああ、あのジャンプ力、すごいな」


俺が答えると狭霧が苦笑した。


「いや、うん、あのジャンプもすごいけど、眠気とじっちゃまを分けて考えるという視点。あと僕らの意見を否定せず、受け止めてから自分の考えを伝えていく話力。すごく勉強になったよ」


「でも結局じっちゃまの正体は分からなかったな」


「うーん」


俺と狭霧は腕組みをした。


「でもまあ、もう正体とか気にしなくてもいいのかもな。内部の人なら悪い人じゃないだろう」


俺の言葉に今度は狭霧と陽菜が「うーん」と唸った。


その後はなんとなく三人とも言葉を発さず、器用に次から次に建物を乗り移っていくだん先輩の姿を目で追っていた。


走って、ジャンプして、飛び降りて、駆け上って、よじ登って。

緩急をつけながら動くその姿は……。


「なんだか、踊っているみたい……」


陽菜のつぶやきに俺と狭霧は頷いた。


だん先輩は俺たちがいる場所からかなり離れた場所まで移動していた。本当は素早い動きをしているのだろうが、ここから見ているとゆったりと舞っているように見えた。


……!


だん先輩が向かっている廃墟のあちこち深い闇が靄のように揺らめいて見えた。


俺は目をこすってもう一度見直したが、その黒い無数の靄は消えない。


「あっ」


俺は小さく声を上げていた。


だん先輩がジャンプして着地しようしているまさにその場所に、黒い靄があった。

だん先輩のスニーカーが黒い靄に触れた、と思った瞬間。

それはまるで、水面に落ちた雫でさざ波が静かに立つようだった。

スニーカーが黒い靄に触れると、靄はさざ波を立て、消えていった。


見間違えかと思ったが、だん先輩がジャンプして黒い靄に触れるたびに同じことが起きていた。


「ねえ、陽菜、狭霧……」


二人の方を見ると、陽菜はうっとりした顔でだん先輩を眺め、狭霧は……涙を流していた。


この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

地道に更新を続けています。引き続きよろしくお願いします。

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