廃墟
窓から外を見ると、目の前には倒壊したビル、崩れ落ちた高速道路、つぶれた家屋などが広がり、そこに草木が育ち、無機質なコンクリの塊を緑のベールが包んでいるみたいになっていた。
「それではいつも通り、ここでお待ちしています」
「うん。いつも通りお願いね。何もないと思うけど、何かあった時はよろしくね」
だん先輩がそう言うと、咲ちゃんは頷いた。
俺たちが降りて歩き出すと、咲ちゃんもバンから降りて、見送ってくれた。
廃墟に行く、と言われていたが、草木が自由に伸び放題なので、手入れされていない森、ジャングルの中を進んでいるようだった。
「この辺りは僕がよく通るから、歩きやすいように大きなコンクリとか移動させたけど、この先はよじ登ったり、降りたりがあるから、気を付けてね」
だん先輩の言葉通り、進むにつれ、登山しているかのような険しさになってきた。
「陽菜、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。お母さんが登山が好きで休みの日は山登りをするか、クレー射撃だったから」
「……僕はかなりキツイ。でも、頑張るよ」
狭霧の方が陽菜より汗をかいていた。
かくいう俺も息があがってきており、だん先輩についてきた本当の理由、じっちゃまのことをなかなか聞けずにいた。
「もうすぐで着くよ」
そう言われて数分後、かなり開けた場所に到着した。
周囲をぐるりと取り囲むように倒壊した建物があり、そこかしこで草木が伸びていた。開けた場所も草が伸びていたが、多少手入れされた感じがあり、周辺の伸び放題な感じとは一線を画していた。ただ、錆びた車やトラックが転がっており、なんだかシュールな景色を作り出していた。
?
丁度、厚い雲が通過し、影が濃くなったが、そこに何か背中がゾワッとするような気配を感じた。
「今、何か見えなかったか?」
隣にいた陽菜に聞いたが、陽菜は「えっ、動物でもいたの?」とキョトンとしていた。
俺の気のせいか。
「僕はしばらくこの辺りで運動するから、この開けた場所の中だったら自由に歩き回っていいよ。安全は確認済だから。でも、周辺の倒壊した建物には近づかないでね」
だん先輩はそう言うと、俺たち一人ひとりにイヤフォンマイクを渡した。
「これ、つけておいて。黒影の任務についても使うものだから。で、何かあったらこれで僕を呼んでね。何もないと思うけどね」
「あ、あの先輩、ちょっと聞いてもいいですか?」
「うん。どうしたの、蓮くん」
「だん先輩も入隊した時、僕たちみたいに金山統括庁で熱田大臣と面会しましたか?」
「? あ、うん。したよ。熱田大臣はなんか迫力があるよね」
突拍子もない質問だったようで、だん先輩は驚いていたが答えてくれた。
「あの、大臣との面会前に応接室で休憩したり、待機したりしました?」
今度は陽菜が質問したが、またも不思議な質問だったようで、だん先輩の頭の上に「?」が浮かんでいる気がしたが、ちゃんと答えてくれた。
「うううん、どうだったかな。えーと、あ、うん。面会前に休憩があったな。応接室だったか覚えてないけど、部屋に通されて……そう、すごく美味しい和菓子を出してもらったんだよ」
当時の記憶がよみがえったのか、だん先輩の瞳が輝いた。
「まさかここで食べられるとは思っていなかった、京都の老舗のお店の羊羹とか練りきりとかいろいろあってね。翔くんも僕も甘党だったから、大喜びでいただいたなぁ。あと一緒に出されたお抹茶も濃厚で…」
「その和菓子を食べていた時に急に眠くなったり、体が動かくなったりしませんでしたか?」
狭霧の質問にさすがにだん先輩も不思議さをぬぐえなかったようだ。
「……僕から一体全体何を聞きだしたいんだい?」
そう言われ、狭霧はじっちゃまのことをついに打ち明けた。
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