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完結●黒影  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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とりあえず着替えようか

俺たちが持つ端末では、隊員予定表を閲覧できるようになっており、そこで公休と非番の隊員が分かるようになっていた。


「えーと、今日の公休はね……火虞槌暖、四尊夜見。非番は春秋佐保……だって」


陽菜が俺と狭霧を見た。


「そのメンバーなら、だん先輩がいいと思う。俺、だん先輩に連絡してみるよ」


俺が端末を操作しようとしたその時。


「あー、蓮くん、それに陽菜ちゃん、狭霧くん、おっはー」


俺たちは玄関ホールのベンチにいたのだが、なんとだん先輩が階段から降りてきたのだ。


昨日の水兵の装いとは違い、ロングTシャツにジャージというラフな装いだった。


「だん先輩、丁度良かったです。今、お時間ありますか?」


「今から廃墟に出かけようと思っていたんだけど、君たちも行く?」


! 


そうか。だん先輩はパルクールが趣味で、公休の日は廃墟に出かけるって言っていたな。


俺は陽菜と狭霧に「だん先輩は廃墟で休みの日はパルクールをしているんだ。一緒について行って話を聞いてみよう」と言うと、二人とも頷いた。


「だん先輩、ぜひ俺らも連れて行ってください」


「オッケー」といい、玄関ホールまで降りてくると、だん先輩は僕らをまじまじと見て言った。


「とりあえず着替えようか」



俺たちはパルクールを一度もやったことがないし、だん先輩も俺たちにパルクールをやらせるつもりは勿論なかった。ただ、廃墟に行くのに着物に袴では無理だった。


そこで俺たちはだん先輩を真似した服に着替え、玄関ホールに再集合した。その間にだん先輩は外出許可書をとってくれていた。


そしてだん先輩がいつも行く場所までは、裏方の黒影隊員がバンで送ってくれることになった。


「咲ちゃん、いつもごめんねー」


「いえいえ、これが私の仕事ですから」


咲ちゃんこと早川咲先輩は、だん先輩が公休で廃墟に行く度に送迎を担当しているようで、気心が知れた仲のようだった。


「今日は新入隊員の皆さんも一緒なんですね」


慣れた手つきでバンを運転しながら、早川先輩は俺たちを見てニコッと笑った。


早川先輩は黒髪のショートヘアに赤いピアスをつけており、黒のスーツの上下の制服にピッタリだった。


「そうなんだよー。僕、人気者だから、なんてね。ねえ、咲ちゃんも昨日の歓迎会に来ていたから、もうみんなのことは知っているよね」


「はい。天野くん、黒雷くん、玉依さん、お顔もお名前もバッチリです」


「あの、早川先輩は何期入隊なんですか?」


俺が尋ねると、早川先輩はクスクスと笑った。


「蓮、早川さんは僕らと同期だ。端末の第十三期隊員一覧に名前があるし、飛行機で見た写真にも写っていたよ」


「!」


俺は早川先輩……早川さんの顔をまじまじと見てから集合写真を思い出し、一致する顔を見つけた。


「失礼しました!」


「いえいえ、気にしないでください。裏方は人数も多いので、顔と名前を覚えるのは大変ですよ。ところで私の呼び方ですが、皆さん咲ちゃんって呼んでいるんで、良かったらそう呼んでください」


早川さん……いや咲ちゃんはミラー越しに俺たちを見てまたニッコリ笑った。


「咲ちゃん達裏方の第十三期黒影隊員はねー、三月から入隊して、実務をスタートさせているんだよ」


だん先輩に言われるまで、同期の裏方隊員について自分がまったく何も知らないことに気づき、俺は大いに反省した。


ちゃんと端末で情報をチェックしないと。


そうこうしているうちに、舗装されている道路が切れ、バンは砂利道を走り始めた。結構揺れるので、話すと舌を噛みそうで、みんな黙っていた。そしてしばらくそんな砂利道を進むと、バンは止まった。

この投稿を見つけ、お読みいただき、ありがとうございます。

明日の更新タイトルは「廃墟」です。

何かが起きる予感が。お楽しみに!

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