真相
「うん。そして天津頭領がえま先輩に『天野頭領の件にこれ以上触れないように』って釘を刺したんだ」
この流れだと波風は立たないはずだが……。
「金山に関わる情報、黒影の情報は極意扱いで、たとえ父が黒影で頭領だったとしても、僕や祖父母に詳細な情報は明かされていなかった。つまり、父がどんな任務に参加し、なぜ死ぬことになったのか、そのすべてが明かされていなかった。だから僕は知りたかったんだ、春秋先輩と父がどんな関わりがあるかを」
「……! まさか」
俺はなめこ汁の椀を持ったまま固まった。
「うん。天津頭領のお酒を持って舟に戻った春秋先輩に僕から聞いたんだ。『父は第三期入隊の黒影で頭領を務めていましたが、春秋先輩は父を御存知なんですか?』って」
「ええええ」
陽菜が驚いて叫ぶと、フォークにささっていたパンケーキがお皿の上にぽろっと転がった。
「その後はみんな知っての通りだよ。春秋先輩も、お姉さんの死の責任、怒りをぶつけるのは僕ではなく、父であるとは分かっていたと思う。でもその怒りをぶつけたい父は死んでいる。振り上げた拳の持って行き場がなく、春秋先輩が苦しんでいると瞬時に理解できた。だから僕はその拳を甘んじて受けるつもりでいたんだ。寸でのところで天津頭領が春秋先輩を舟から連れ出してしまったけど」
俺がちょっと目を離した隙に、天津頭領が佐保先輩を連れ出していたのか……。
「信じられない! なんで狭霧はそんな無茶するの~! 拳を受け止めるって、カッコいいこと言っているけど、相手は黒影だよ。もし本当に殴られていたらいきなり医務室行きで入院だったかもしれないよ」
少し論点がずれている気がするが、陽菜の言っていることは一理ある。あれだけの怒りをこめた拳を無防備に受け止めるのは自殺行為だ。
「あの時の佐保先輩の『許せない』の一言の重みは狭霧も勿論感じていたよな?」
「うん。それはね。他人からあれほどの怒りをぶつけられるのは初めてで、さすがに恐怖を感じたよ。拳の一つじゃすまないかな、って」
茶化すように狭霧は笑うがその通りだ。
「そこだよ。一発殴っておしまいとはとても思えなかった。もっと別の解決方法をとらないと……」
「そうだね、蓮。まあ、春秋先輩のことは個人的な問題だから、僕がなんとかするよ」
「それは違う、狭霧」
「そうだよ~狭霧。私たち仲間なんだから。ひとりで抱え込まないで一緒に解決しようよ!」
俺と陽菜の言葉に狭霧は驚いたようだった。
「君たちはわざわざ面倒くさい問題に首をつっこもうと言うのかい?」
俺と陽菜は力強く頷いた。
「……分かった。ありがとう」
そこで俺はだん先輩が語った佐保先輩のこと、実は亡くなった佐保先輩の姉の許婚が夜見先輩だったことなどを話した。
だん先輩が分析した佐保先輩の気持ちと行動について、狭霧も同じように考えていた。だが夜見先輩という許婚が今の黒影にいるとは想像できていなかったようで、驚きを隠せずにいた。
「ただ、夜見先輩は狭霧をどうこうするつもりはないと言っていたから、そこは安心していいと思う」
「そうか……。しかし、よりによって僕を……父に恨みを持つ人物が二人もいるなんて」
さすがの狭霧も参ったなという表情を浮かべた。
「同じ黒影にいるわけだし、訓練が終わって現場に出た時、一緒に任務に就くことはざらにあると思う。それまでに和解というのか、理解しあえるといいよな。やっぱりそれには直接相手と話すのが一番だよな……」
「そうだね、蓮。夜見先輩はまだしも、春秋先輩は今どんな精神状態なのか、それが分からないと迂闊に話しかけられないかな……」
「まあ、そうだよな。でも佐保先輩をあの場から引き離したのが天津頭領だったし、佐保先輩とちゃんと話をしたと思う。あの後、別の舟で佐保先輩を見かけたけど、すっかり落ち着いていた。昨晩のように怒りを剥き出しにすることはないと思う」
俺の言葉に陽菜が手を挙げた。
「陽菜の舟に、春秋先輩と同期の阿曇先輩……阿曇怜さんがいたの。実は装甲車の運転をしていた人ね。同期なんだし、阿曇先輩を通して春秋先輩の様子を探ることはできると思う」
そこで佐保先輩のことは、陽菜から阿曇先輩に探ってみてもらうことにした。夜見先輩については、機会があれば話してみようということでこの件は落ち着いた。
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